インターネットなどを利用して治療や診断を行う遠隔医療の導入が増加傾向にあります。この記事では、遠隔医療が求められる背景やメリット・デメリット、今後の展望などについて説明します。
遠隔医療とは
遠隔医療とは、インターネットなどを利用して治療や診断に必要な情報を送受信して、地理的に治療や診断の難しい場所・状況でも医療行為を受けられるようにすることを指します。
遠隔医療は大きく、医療従事者間(Doctor to Doctor、通称D to D)の遠隔医療と、医師・患者間(Doctor to Patient、通称D to P)の遠隔医療とに分けられます。
例えば、医師・患者間で実施される遠隔医療としては、オンライン診療が代表的です。オンライン診療では、体温・血圧・脈拍・尿糖値といった生体情報に加え、患者の映像・音声などを、ネットワークを通じて医師が確認できる仕組みにより、患者は来院せずに診察を受けることが可能になります。
遠隔医療が求められる背景
遠隔医療が求められる背景には、日本国内における医師不足や医療の地域間格差などがあります。少子高齢化に伴って医療需要は増加し続けているのに対し、医師数はそれに見合った人数に達していません。
日医総研が公表している2019年のデータによると、日本の人口当たりの医師数は人口1,000人あたり2.4人で、OECD加盟国の中で32位とかなり低いものでした。
医師不足により、十分な医療を受けられないリスクが特に高まるのが過疎地や離島です。現在は道路網が整備されているため山間地域でも近隣の主要病院へアクセスが可能ですが、冬季の豪雪地帯などはその限りではありません。また、医師が訪問診療をする場合においても、家が点在する過疎地では都市部より時間がかかるため、病院や医師の負担が重くなり、都市部と同じ人数の医師では対応が難しくなります。
離島はアクセスの悪さや医師の確保が困難な点に加え、医療施設や機器設備自体が不十分であることも多く、都市部と同様の医療を受けるのは難しいのが現状です。
こうした状況に対し、遠隔医療は僻地にも十分な医療を提供する効果的な手段として期待されています。
医療従事者間の遠隔医療
医療従事者間の遠隔医療には、遠隔相談、遠隔画像診断、遠隔病理診断などがあります。
遠隔相談は、患者の主治医と各科の専門医との間で行われる遠隔医療です。主治医が患者の状況について各科の専門医に確認したい場合、患者の病変部の撮影画像などを共有して、遠隔地の医師にアドバイスを求めることができます。
遠隔画像診断はCTやMRI画像などの医療画像や健診画像を、ネットワークを通じて放射線科医に提供し、遠隔で読影や診断を行う遠隔医療です。放射線科医は世界的にも不足しており、医師不足を補う有効な手段として活用が進んでいます。画像診断については「AIによる画像診断の仕組みとは」でも紹介しています。
遠隔病理診断は、患者の病巣部から採取した組織や細胞などを撮影・記録した病理画像をデジタル化して、遠隔地にいる病理医がリアルタイムに病理診断を行う遠隔医療です。病理医不在の病院が多いため、従来の方法で検査を実施すると検体を発送する時間なども含め、診断までに時間がかかってしまいます。そこで、遠隔病理診断を活用することで時間を短縮し、医療の質低下や治療の機会損失を防ぐことができるのです。
医師・患者間の遠隔医療
医師・患者間の遠隔医療の代表的なものがオンライン診療です。
医師・患者間で、パソコンやスマートフォンを介してビデオ通話を行うことで、患者は自宅にいながら主治医の診断を受けることができます。このタイプの遠隔医療を、オンライン診療のほかに、遠隔診療、遠隔診察、テレケアなどとも呼びます。
また医師・患者間の遠隔医療では、測定のサポートや診療支援のために看護職が間に入るD to N to P(Doctor to Nurse to Patient)の形態も存在します。
遠隔医療のメリット・デメリット
遠隔医療の主なメリットは、総合的な医療の質が向上する点です。遠隔画像診断や遠隔病理診断が一般化すれば、医師不足による医療地域格差が是正され、専門医が不在の病院でも専門医の判断に基づく質の高い医療を提供することができます。MRIなどの機器を備えながら専門医不在のために活用できていないケースもあり、こうしたリソースを有効活用できる点も遠隔医療のメリットと言えるでしょう。
また、オンライン診療が利用できれば、患者にとって通院の負担や待ち時間が軽減できます。治療に必要な通院ペースを実現しやすくなったり、症状が本格化する前に受診しやすくなったりすることで、治療の長期化などを予防する効果も期待できます。同様に、医師の訪問診療などの移動負担が軽減することにより、医師不足の解消にも役立ちます。
また感染症対策としても機能するので、病院へ行くことでかえって具合を悪くする、といった心配も払拭されるでしょう。
一方で、遠隔医療にはデメリットもあります。まず、測定機器やネットワークの性能により、リアルタイムに提供できる情報に限りがあるため、現在の遠隔医療では対応しきれないケースがある点です。また、機器を扱ったりネットワークを介するうえで医師、患者双方にITリテラシーが求められるという点では、遠隔医療を受けられる人が限られる点もデメリットと言えるでしょう。困りごとをヒアリングしたり、仕組みのアップデートを繰り返したりと、利用促進にあたる案内を充実させていく必要があります。
遠隔医療の今後の展望
遠隔医療に関して、厚生労働省では2019年3月にオンライン診療の指針を定めました。2022年1月には同指針を改正し、「初診からのオンライン診療」を制度化するなど、政府も遠隔医療を推進しています。
ただし、オンライン診療で得られる情報はまだ限定的であるため、対面診療と組み合わせて実施されるのが原則です。
今後はこうした制度の改正に加えて、インターネット回線の高速化や情報通信機器の進歩に伴い遠隔診療と対面診療の質に差がなくなり、遠隔医療がより一般に広まっていくことが期待されます。
遠隔医療が求められる背景から、遠隔医療の今後の展望までを解説しました。遠隔医療にはメリットも多い一方で、技術的に対応が難しいケースがあったり、ITリテラシーが求められるため利用者が限定されてしまったりするなど、乗り越えるべき障壁もまだ多く存在します。
現時点でどういったデータの収集が可能か興味のある方は、こちらの記事をご覧ください。
医療分野におけるIoT(IoMT)導入のメリットと活用事例