AIによる画像診断の仕組みとは

人手不足が深刻となっている医療業界で、AIによる画像診断が注目されています。今回は、AIで画像診断を実現する仕組みや、画像診断におけるAI活用の現状、今後の課題などを解説します。

画像診断には放射線科医が必要か?

画像診断に放射線科医(放射線診断医)が必要な理由は、CTやMRIなどの画像診断技術が日々進歩しており、各科の医師がすべてを把握するのは大変困難なためです。画像診断レポートの見落としを防ぐためにも、最新の画像診断技術に通じた放射線科医による診断が必要になります。

2021年のOECD(経済協力開発機構)統計データによると、人口あたりのCT台数は日本が群を抜いており、高齢化に伴って検査件数も年々増加しています。しかし、国内のCT機器の中には放射線科医不在で稼働するものも多く、専門医不在のまま画像診断が実施されている検査が少なくありません。画像レポートの見落としが病気発見の遅れとなってしまう事例は少なくなく、厚生労働省も繰り返し注意喚起をしています。

こうした現状に対し、放射線科医の不足を補う手段として、AI技術による診断支援の精度向上が期待されています。AIの教育に用いられる機械学習は、大量のデータから共通点や異常を見出すというタスクと相性が良く、特定の疾病に限定すればすでに熟練医を上回る精度の診断が可能なAIも開発されています。

AIによる画像診断が可能になる仕組み

AIによる画像診断には、ディープラーニングと呼ばれる手法が用いられています。ディープラーニングは脳の神経回路をモデルとした機械学習の手法の1つで、大量のデータをもとにAIが自動的に特徴を抽出する仕組みです。

正常な状態と異常な状態の画像に加え、医師による判断内容や考えの根拠といったデータをAIに大量に読み込ませて、AIが自ら病変の有無を見分けられるように訓練していきます。繰り返し学習を行うことで、画像認識の精度を上げていくことが出来ます。

従来のAIに用いられていたエキスパートシステムと異なり、病変の有無を見分けるための特徴やルールを人間が与える必要がないため、読み込ませるデータの質や量次第では人間を凌駕する成果を生み出す可能性を秘めているのが特徴です。

AIによる画像診断はすでに実用化されている?

画像診断は医療界で最もAI活用の進んでいる領域のひとつであり、画像診断支援という形で補助的に使用する範囲ではすでに実用化されています。特に、大腸内視鏡や胃カメラといった患者数が多い分野や、MRIやレントゲンなどの検査数が多い分野では、AIの学習に必要なデータを得やすく、製品化されたソフトウェアが多くの病院で活用されています。

製品化されたソフトウェアの中には経験の浅い放射線科医のサポートを目的としたものが多く、検査画像から異常部分を検知してマーキングしたり、特定の部位を自動計測して医師ごとのバラつきを減らしたりといった効果が期待できます。

さらに、2022年度の診療報酬改定で、「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が保険適用となりました。医療分野におけるAIの活用が実用化され、徐々に一般化しつつあると言えるでしょう。

医療分野におけるAI活用の課題

医療分野におけるAI活用はメリットも多いですが、いくつかの課題もあります。

まず1つ目の課題は、AIの精度向上です。ディープラーニングを用いたAIの精度を高めるためには、質の良いデータを大量に集める必要があります。しかし病変の中には、患者数や検査数が少なく、十分な精度を得るためのデータ収集がそもそも困難なものもあります。

それに、画像データを集められたとしても、それらのデータをそのままAIの教育に活用できるわけではありません。収集したデータをAIの機械学習に使える状態にするためには、メタデータを付与するアノテーションと呼ばれる作業が発生します。言い換えると、AIの機械学習における「教師データ」を作る作業です。アノテーションはAIの精度に直結するため医師が実施する必要がありますが、慢性的に医師が不足している状況で誰が担当するのか、という点も課題です。

また、AIによる診断は根拠が分かりづらい、というのも医療分野におけるAI活用の課題と言えます。AIによる画像診断支援では、病変と思しき部位を検知して「がんの可能性が80%」と示せても、その判断根拠までは現段階では提示できません。そのため、病変の発見に役立てることはできても、それだけでは診断に対する納得感が得づらいというのが現状です。

そして、AIの診断に従って医療ミスが発生した場合、誰が責任を負うのかという問題もあります。現状では「AIはあくまでも診断支援に用い、最終診断を下すのは医師である」という立場が一般的ですが、すでに熟練医を上回る精度の診断が可能なAIも登場している状況で、本当にAIの診断内容まで医師個人が責任を負うべきなのか、という議論もあります。

このように、AI活用にはさまざまな課題があります。しかしながら、これらの課題を踏まえてもAI活用のメリットは大きいものであり、AIの実用化による医師不足の解消や医師の負担軽減が期待されています。

AIを活用した画像診断の仕組みや現状、課題などについて解説しました。診断の精度向上や診断根拠の不足、責任の所在など課題はあるものの、すでにAIを活用した画像診断ソフトウェアを導入しているケースも多く、2022年から保険適用されています。
画像診断支援を含め、医療分野における今後のAI活用に引き続き注目していきましょう。