医療分野におけるIoT(IoMT)導入のメリットと活用事例

あらゆるモノがインターネットを介してつながりデータの蓄積や制御が可能になるIoT技術は、医療分野や介護分野でも遠隔診療や高齢者の見守りなど、さまざまな目的のために活用されています。ここでは、医療分野や介護分野、ヘルスケア分野でのIoTの導入に関するメリットや実際の活用事例について紹介します。

医療分野の新しいIoT「IoMT」とは

医療分野に新たに導入されているIoT技術に「IoMT:Internet of Medical Things」と呼ばれるものがあります。医療に使われるさまざまな機器とメディカルシステムとをネットワークを通じてつなぐ考え方で、IoMT化すれば患者のバイタル情報や診療情報がリアルタイムにデータとして蓄積され、ビッグデータとして分析できるようになります。

将来的に多くの医療機器がIoMT化されると考えられており、IoMT機器を使ってバイタル情報を収集・蓄積し、検査データと組み合わせて体調を正確に把握し、年齢・体質・社会的立場も含めた全人的な情報から生活習慣についての問題点を洗い出し、具体的な改善策が提案できるようになります。すでに蓄積されたビックデータから新たな治療方法の提案や、新たな医学的知見が得られる可能性も期待されています。

センサーによって収集された情報は医師だけでなく、看護師やその他の医療従事者と職種や職域の適切な範囲で共有されることで、診療全体のレベルをあげ、アウトカムの質の向上を図ることができます。また、臨床研究を行っている研究者などの間でも情報がリアルタイムで共有され、データが分析されることで、患者に対してはその時の健康状態や改善に関する提案を行い、正確性と効率性の高いアドバイスが可能になるでしょう。IoMTはヘルスケア分野や介護分野での知見を反映可能な医療分野のIoTとして、今後の発展が期待されています。
次に、ヘルスケアや介護だけでなく、医療そのもののIoT化を見ていきたいと思います。

医療のIoTとは

医療には、患者の状態によって大きく分けて急性期・回復期・慢性期・終末期という4つのフェーズがあります。急性期では患者の容態が時時刻刻と変化していきますし、回復期では治療が終わりリハビリをしながら退院に向けて若しくは通院しながら前向きに進んでいる時期ともいえます。また、急激な回復も増悪もしない慢性期という症状と付き合いながら生きていくフェーズや、人生の総まとめに入っていく終末期という時期もあります。それらのそれぞれの時期にIoT機器が入り始めています。

急性期のIoT

今まで急性期では患者を直接見て診察行為をするという大前提がありましたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、全国の医療機関がビデオ会議システムなどを使った遠隔診察と遠隔診断を実施しています。入院時にクリニカルパスを作成する際も、IoT機器から得た情報をデータベース化し蓄積・分析しておくことで、個人にあった最適なパスを作成することができるようになります。また、更に5Gのような超高速・超低遅延の通信が実用化してくると、遠隔で手術を行うオンライン手術が現実的になってきます。

回復期のIoT

症状が回復したり、復帰に向けてリハビリテーションをしたりする時期では、バイタル管理と投薬管理、リハビリテーション強度の管理が重要になってきます。入院中のさまざまな医療機器がIoT化され、オンラインでつながる状態になると、今まで点でしか見ることができなかった情報が線で見られることになり、医療者と患者の両方からの安心につながります。患者が毎朝4時に気分が悪くなるという主訴があっても、朝4時に何が起きているかを医師が張り付きで見るのは困難です。しかしIoT機器で継続した状態が記録できれば、その時のバイタルの状態を確認することが可能になるのです。

慢性期のIoT

退院後や、自宅で病気と付き合いながら生きていくという場合、前述したIoMT機器と言われる医療向けのIoT機器は最も効果的な役割を果たします。慢性期では毎日のバイタルデータの傾向を把握し、異常値を検知していくことが重要になります。例えば体温37.5度を閾値として一律に設定してしまうと、平熱が36.0度の人と平熱が36.5度の人とでは、37.5度の持つ意味が大きく変わってしまいます。そういう場合に患者個別のデータや患者固有の状態を考慮に入れた診断をするためにはIoT機器で取得するデータが重要なのです。

終末期のIoT

誰もが迎える人生の幕引きの時期では、IoMT機器のようなものでバイタルデータを収集するのと共に、生活データを収集し共有するIoTも重要になってきます。病院で最後を迎えるのが一般的ですが、最近では、昔のように自宅で最後を迎えたいという人も増えてきています。その場合、医療従事者だけでなく生活をサポートする介護従事者との情報共有も必要になってきます。毎日の生活情報、例えば食事や排便、入浴などの情報をIoT機器で収集し医療と介護で共有することで、最後まで人間らしく豊かな生活を送ることができるのです。

医療機関がIoTを導入するメリット

医療機関がIoTを導入するメリットとして、第一に患者へのサービス向上が挙げられます。診察を受けにきた患者の背後にある膨大な情報をIoMT機器を使ってリアルタイムにデータ収集できれば、即時的に診断や適切な情報提供ができるようになり、医療機関が本質的に提供すべきサービスの向上につながります。かかりつけの病院だけでなく、他院に行った場合でも安心して通院できるようになるでしょう。

そして医療機関の収益アップにもIoTは貢献できます。入院がなるべく短い方が診療報酬はアップします。問題は大病院で手術をした場合に、早めに退院させることと、患者の体調管理や精神的不安のバランスをどのように取るのかということになります。そういう場合にIoTが活躍します。大病院から地域の中小病院や診療所に患者を逆紹介する退院支援を地域連携部門が行う時に、IoT機器を患者が使う前提で逆紹介を行い、何かあったらすぐに大病院に戻れるようなルートを用意しておくことができるようになるのです。

医療機関の収益アップにつながることと同時に、データを正確に収集し判断できるようになると、医師の処方ミス、看護師の投与ミスなどによって患者が損害を受ける「医療過誤」の抑制という組織の「守り」とも言うべき分野にも役立ちます。薬の飲み合わせや処方量などは、多忙な医師だけの判断に頼るのではなくビッグデータを活用し、AIなどで分析して結果を返したうえで、医師の指示や薬剤師のダブル・トリプルチェックを行うことでより正確な処方が可能になります。

さらに、院内の医療事務作業においても、データを自動で出力させたりその場で患者の情報を保存・保管するなどの効率化が実現し、レセプト業務などの一連の診療報酬の請求でも自動化が進むので、正しい請求を行うことができ、事務作業の省力化やペーパーレス化に貢献します。

医療分野におけるIoT活用事例

現在、前述の通り医療分野ではIoTを活用した遠隔診断や診療が実現していますが、さらに一歩進んでIoTを使った遠隔治療も開始されています。

遠方の医療機関同士をつないで診療を行うシステムは「遠隔診療支援システム」と呼ばれており、病院同士を回線でつなぎ患者が実際にその場にいるような感覚で診察を行うことができます。

たとえば北海道の病院にかかっている患者が東京の大病院で手術をしたとき、遠隔診療支援システムを活用すれば、東京の執刀医は北海道の担当医から普段の病状に関する説明が受けられ、東京の執刀医からは予後の状況や経過のポイントをリアルタイムに聞くことができます。

総務省主導のもと、5Gを活用した遠隔診療に関する実証試験も進められています。山間部のように病院まで離れている地域の診療所と大病院を結んだ遠隔診療試験では、診療所と病院の医師がお互いに映像を確認しながら診察が行われました。この技術が一般的に導入されれば、病院から離れている過疎地や、地震・台風などで被災した災害地での診療が可能となります。

アメリカで開発された有名な手術支援ロボットのダヴィンチは、患者の体に負担をあまりかけずに手術を進める低侵襲手術が行えます。現在は患者と同じ手術室内で外科医がロボットアームをVR環境で操作していますが、超高速・超低遅延の5G通信を活用して遠隔からのオンライン手術も可能になれば、東北にいるゴッドハンドと言われる医師が、九州の患者を5G通信とダヴィンチなどの手術支援ロボットを通して遠隔で手術を行うことも可能になるのです。

「E-parkヘルスケア」のように、オンラインで予約が行えるシステムにもIoTが活かされています。運営しているウェブページやアプリから直接診療予約ができ、希望の時間帯を入力することで医療機関側と調整を行えます。さらに、ウェブ上で患者の状態を確認しながら医師が診察を行うオンライン診療や、診療後に決済がその場でできるオンライン決済システム、薬局への処方箋の自動送信にも対応しています。

最近では、予防や未病の視点から腕などに巻きつけるタイプの「ウェアラブルデバイス」にもIoTが活用されています。手首に巻きつけて体温・脈拍・血圧をリアルタイムに監視するウェアラブルデバイスは、24時間365日データを蓄積するため、体調の変動がひと目でチェックできるメリットがあります。運動中・通勤中・睡眠中などさまざまな状況で、体調に変化が起きるタイミングを見える化します。
また、「ウェアラブルデバイス」には加速度センサーも入っていますから、倒れたことを検知して、その人がしばらく動かない場合は自動で救急を呼ぶということも可能になり、実際にアップルウォッチにはアメリカで承認された同機能が実装されアメリカ国内で販売されています。

ウェアラブルデバイスはバイタル情報を可視化する機能によって、体調だけではなく精神状態や生活の質もチェックすることができます。日立製作所などでは、人間の細かな動きをセンシングすることで「幸福度」を計るということも行われています。既往症をもつ高齢者が利用すれば、高齢者自身はもちろんその家族や介護施設にとっても「見守り」だけでなく幸せに生活するための道具として役に立ちます。

医療分野のIoT(IoMT)の活用は、5GやAIの導入と普及によって今後さらに活用の幅が広がっていくと考えられています。コンピュータやタブレット、携帯電話などの通信機器を使用すれば、遠隔地に居ても大病院の医師とリアルタイムに接続し、質の高い医療サービスが受けられます。医療分野における多くの課題を解消してくれる存在としても期待されているため、ぜひ積極的に取り入れていきましょう。