スマート農業のメリット・デメリットや導入のポイントなど

農業で大きな課題となっている労働力不足を解消する取り組みとして、新たな農業の形「スマート農業」が注目されています。
この記事では、農林水産省が推進するスマート農業について、概要やメリット・デメリットなどを解説します。スマート農業を加速するための政策パッケージ「スマート農業推進総合パッケージ」についても触れますので、あわせて参考にしてください。

農林水産省が推進する「スマート農業」とは

スマート農業とは、ICT(情報通信技術)・IoT・AI・ロボット技術といった先進的なテクノロジーを活用した新たな農業のことです。

省力化・人手の確保・負担軽減といった従来の農業における課題を解決して、高品質な生産体制を実現するための有効な取り組みとして注目が集まっています。

スマート農業は農林水産省でも推進されており、2020年10月には「スマート農業推進総合パッケージ」が取りまとめられました。

「スマート農業推進総合パッケージ」とは

スマート農業推進総合パッケージとは、「2025年までに農業の担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践」という政策目標を実現するために農林水産省が策定した、スマート農業を加速するための政策パッケージです。

このパッケージでは、次の6つの柱で施策の方向性が示されています。

  1. スマート農業の実証と分析
  2. 導入コスト低減に向けた農業支援サービスの育成・普及
  3. 更なる技術の開発等
  4. 技術対応力・人材創出の強化
  5. 実践環境の整備
  6. 海外への展開

スマート農業のメリット

スマート農業の実現によって得られるメリットを解説します。

品質向上

スマート農業のメリットの1つは、農作物の品質向上および品質の安定化ができる点です。スマート農業では、各種センサーや画像データからあらゆる情報を得られることによって、自動的かつ最適化された量やタイミングで水や肥料を与えられるようになるため、水や肥料の与えすぎや不足による農作物の品質低下を防ぐことができます。

収穫量の増加

スマート農業では、農作物の収穫量が増加する効果も期待できます。各種機器の導入によって自動化できる作業が増えれば、1人当たりの作業面積が増えるため、規模拡大もしやすく収穫量の増加が見込めます。

また、カメラを搭載したドローンなどにより農作物の外観データを収集、蓄積して分析することで、AIによる画像診断で病害虫を早期発見して被害を最小化することも可能で、新規就農者などの不慣れな作業者でも収穫量が減少するリスクを回避できるでしょう。

さらに農薬の散布も必要最小限で済むので、作物の成長能力を最大限に発揮した生産が実現できます。

作業の効率化・省力化

農作業を効率化・省力化できる点も、スマート農業の大きなメリットの1つです。スマート農業を実現すれば、収穫、農薬散布、施肥や水やり、圃場の見回りなど、今まで手作業や人力で行っていた作業を自動化でき、大幅な効率化・省力化につながります。

また、スマート農業における作業の効率化につながる取り組みは、自動化だけではありません。重労働や危険な労働を機械によって補助することで、作業にかかる時間を短縮できるだけでなく、軽労化することで高齢者や女性の就労支援にもつながり、人手不足解消効果が期待できます。

技術の継承

スマート農業は、技術の継承にも役立ちます。従来の農業では、熟練農業者の経験や勘に基づく判断といった暗黙知を、新規就農者でも分かるように形式知化することが困難でした。スマート農業では、あらゆるデータを収集することによって、暗黙知を見える化して継承することが可能になります。

また試行回数が限られる農業において、実践的な経験を積むことが難しい点も課題でした。この課題を解決するため、VRや3Dモデルを活用して果樹の剪定技術を学習する取り組みなども行われています。

収益の増加

スマート農業を実践すると、コスト削減や付加価値の向上によって収益の増加も期待できます。施肥や農薬散布の自動化により肥料や農薬の消費量が最適化できれば、コストを削減できるうえに無農薬・減薬栽培といった付加価値を生み出せるため、消費者・実需者の安心や信頼につながり、より高い収益性を実現できる可能性があります。

また、それぞれの作業にかかる時間が抑えられれば、人件費の削減効果も得られるため、コストを抑えながら大規模化を図ることも可能です。

スマート農業のデメリット

スマート農業のデメリットとして、まず導入コストが挙げられます。自動化や効率化、省力化のための各種センサーやロボットといった機器の購入や、インターネット接続環境の構築などに費用がかかるため、スマート農業の実践には相応の導入コストがかかります。

従来の農業でも発生していた「機械化貧乏」に陥ることのないよう、優先順位を付けて、段階的にスマート化を進めていくなどの計画的な取り組みが求められるでしょう。

また、スマート農業は実現すればさまざまなメリットが得られる取り組みですが、一方で、スマート農業に対応できる人材を確保できないとそもそも実現が難しい点もデメリットと言えます。

例えば農薬散布の最適化には、圃場や農作物の状態を見える化するためのセンサー設置のほか、ドローンが回遊できる環境整備の必要性などもあり、知識や経験のない人だけがハードルが高い状況となっています。

スマート農業は、従来の農業におけるさまざまな課題の解消につながると期待されています。導入コストがかかる点や、スマート農業に対応できる人材が必要な点など導入には障害もありますが、障害をクリアすることができれば品質向上、効率化、省力化など多くのメリットを享受できますので、必要に応じて賢く取り入れていきましょう。

なおスマート農業による省力化の詳細や事例については、下記記事をご覧ください。
ICT・IoT導入で省力化できる! スマート農業とは