MVNOや、MVNOが提供する格安SIMが日本で普及し始めて10年以上が経過しています。現在では個人向けだけではなく法人向けの格安SIMも多数登場し、IoTやM2Mに活用するなどその用途も広がっています。そこであらためて、MVNOとは何か、そしてMVNEやMNOとはどのように違うのかなど、MVNOについて知っておきたい基本的なことをまとめて解説します。
MVNOとは?
MVNOとは、自社でアンテナや基地局、全国の回線網を持たず、NTTドコモ、au(KDDI)、ソフトバンクの大手携帯電話会社(大手キャリア)から回線網を借り受けてサービスを提供している事業者です。いわゆる「格安SIM」を提供している会社のこと、と理解するとわかりやすいでしょう。通信回線を借りているため基地局の増設や回線網の保守メンテナンスなどのコストがかからないなどの理由で、割安なサービスを提供しています。一方、アンテナや基地局は大手キャリアのものをそのまま利用しますので、通信可能エリアは大手キャリと同じとなっています。
MVNOは「Mobile Virtual Network Operator」の略で、「仮想移動体通信事業者」と訳されます。日本では2001年にPHSで初めてのMVNOが登場していますが、本格的な参入が始まったのは2009年前後で、その頃から格安SIMという言葉も知られるようになりました。現在ではインターネットプロバイダーなど多くの会社がMVNOとして事業を展開しています。
MVNE・MNOとの違いはなに?
MVNOとよく似た言葉にMVNEとMNOがあります。
MNOは「Mobile Network Operator」の略で、「移動体通信事業者」のことです。MVNOの「V(Virtual=仮想)」がない点が両者の相違点となっています。
日本においては、MNOは大手キャリアのことを意味します。また楽天モバイルも新たにMNOに参入して、2020年より本格サービスを開始しています。MNOは総務省からそれぞれ周波数帯を割り当てられていて、基地局を介して自社の回線網をユーザーに提供し、さらに一部をMVNOに貸し出しています。MNOは国民の共有財産である無線電波という有限な資源を安価な利用料で借りる代わりに、MVNOにも貸し出す義務を負っています。
もう一つのMVNEは「Mobile Virtual Network Enabler」の略で、日本語では「仮想移動体サービス提供者」と訳されます。MVNEはMVNOの支援事業者です。MVNOとしての事業に新規参入しようという会社があるときに、MVNEは大手キャリア(MNO)と交渉して借り受けた回線を小分けにしてMVNOに提供します。またあわせて、MVNOの課金システムの構築・運用、スマートフォンなどの端末の調達といったノウハウの提供、その他MVNO事業に関わるさまざまなコンサルティング業務を請け負います。
MVNO・MVNE・MNOのそれぞれの役割
同じようなアルファベットが並ぶ言葉ばかりで混乱しがちなので、改めてMVNO・MVNE・MNOのそれぞれの役割を整理しておきます。
MVNO(仮想移動体通信事業者)
「格安SIM」を提供する会社。MNOから回線をレンタルしています。MVNO事業に参入している会社は多数存在します。
MVNE(仮想移動体サービス提供者)
MVNOとMNOの間に立ち、MNOからまとめて回線を借り受けて、MVNOに卸している会社。MVNO事業のノウハウ提供やコンサルティングも行います。
MNO(移動体通信事業者)
NTTドコモ、au、ソフトバンクなどの大手キャリアのことです。自社で基地局や回線網などの通信インフラを所有しています。
MVNOが提供する格安SIM
MVNOが提供する格安SIMには、データ通信、SMS、音声通話ができる「音声SIM」と、データ通信、SMSが送受信出来る「SMS SIM」、データ通信のみ使える「データSIM」の3種類があります。
また最近では、個人ユーザーがスマホやタブレットに挿して使用する格安SIMだけではなく、法人向けとしても格安SIMが提供されています。
法人向け格安SIMは、社用のスマホやタブレットだけに使用されるわけではありません。昨今はIoTやM2Mといった機器の通信に使用されるデータSIMの需要が伸びています。
たとえば法人向けの格安データSIMは以下のような用途に利用できます。
- Webカメラなどの監視機器を利用したインターネット経由でのモニタリング
- 工場に設置されたPLC(生産用機械などの制御を行う装置)のデータ吸い上げ
- 工場などの死活監視(外部からの定期的・継続的監視)
- クラウドサーバとモバイル機器との双方向通信
- M2MルータやIoTゲートウェイのリモート設定
さらに、たとえばネットワークカメラなど映像IoT向けのSIMであれば、データアップロード用の上り通信に特化した仕様の格安SIMも登場しています。通常よく利用される下り通信を絞ることによって低価格での提供を実現し、突発的な上りの大容量通信にも対応できるといった商品です。
MVNOが定着し、またIoTやM2Mが普及してくるにつれ、MVNOが提供する格安SIMの種類も多様化してきています。
VMNOとは? MVNOと5G
2020年春からMNO各社は5Gサービスを開始しました(楽天モバイルは2020年秋の予定)。この5Gが本格的展開される2023年以降には、新たなMVNOの形態が生まれるといわれています。
それが、「VMNO」、Virtual Mobile Network Operator(仮想移動通信事業者)です。今後、本格的になる5Gでは通信設備の仮想化・分散化がより進んだものになります。その仮想化・分散化された中から必要な機能をAPI(Application Programing Interface:システムやデータを連携する機能)を通じて都度呼び出して使っていくような方式になるといわれています。これによって、MVNOもMNOの所有するアンテナや基地局を共同利用する通信事業者として、新たなビジネスやソリューションを実現できる可能性があります。
この「VMNO」は、多くの電気通信事業者が加盟するテレコムサービス協会のMVNO委員会が総務省に要望を出し、現在、総務省の主催する研究会で有識者・MNO・MVNO等で検討を重ねている次世代のMVNOの形態となっています。今後の検討状況から目が離せません。
MVNOの概要とMVNE・MNOとの違いについておわかりいただけたでしょうか。MVNOは今では個人向けはもちろん、法人向けにもさまざまなソリューションを用意しています。上記を参考に、MVNOが提供する格安SIMの活用を検討してみてはいかがでしょうか。