ICTやIoTの導入によって進められている「スマート農業」は、手間と時間のかかる農業をITの技術によってスマート化する取り組みです。ここでは、IoTがどのように農業分野に活用されているかについて解説します。
IoT活用で実現する「スマート農業」とは
スマート農業とはICTやIoT、AIなどのテクノロジーによって作業の自動化を行い、作物の成長を管理して高度な農業経営を可能にする取り組みのことです。近年ではIoTの導入によって、自動走行トラクターによる農地での無人作業が可能になりました。水田には自動運転田植え機や水田の水管理を行うシステムが投入され、限られた作期での1人あたりの作業面積が大幅に拡大。農業の大規模化と効率化が図られています。
スマート農業は農地・山林・水田のいずれの圃場にも対応でき、土地の形状や特徴に合わせた作業を可能にします。農業機器を使いこなすには一定の経験が必要ですが、ロボットの投入によってトラクターや田植え機が自動で作業し、危険な場所でも安全に耕作が進められるようになりました。スマート農業が広まるほどつらい肉体労働のイメージが取り払われていき、若い人や女性の参入のきっかけづくりにも役立っています。
ロボット技術とIoTの組み合わせは、過疎化しやすい中山間地域の農家など、農業の活性化に役立ちます。従来人の手が入っていた傾斜地の草刈り作業も、専用の草刈り機の導入によって省力化。転落の危険がある場所で栽培される農作物の生育観察にはドローンが使われ、耕作放棄地の減少や改善にもつながります。
IoT技術で農業の課題を解決
農業の現場では人手不足の解消や作業の省力化が長年の課題でしたが、単純な機械化による耕作面積の大規模化の次のフェーズとして、さまざまなセンサとアクチュエータなどのIoT技術を導入することで農作物を効率的に監視・管理できるようになり、生育状況を逐次データ化して「見える化」できるようになりました。一つずつ手作業で確認していた農作物の生育状況がリアルタイムに遠隔監視できるようになるのと同時に生育状況に応じた管理も遠隔で行えるようになり、農繁期と農閑期の農業従事者の負担や人件費の平準化が進み、年間通して作業にかかるコストの削減効果も得られます。
日照や水はけにバラつきが出てしまう傾斜地や気候条件の特殊な「条件不利地域」にもロボットの投入やIoT化を行うことで農作物の新たな生産基盤が生まれ、台風や地震などで耕作地が減少した被災地の復興と再生の促進にも貢献します。農業分野がインターネットにつながり、多くの情報がデータとして活かされると、農業が生来持つ天候や疫病による収穫の不確実性を減らすことができるようになり、異業種やベンチャー企業が新たなビジネスに乗り出し、日本国内における農業従事者の増加と自給率の向上を促す可能性もあるでしょう。
さらに熟練の農業従事者の技術・知識・ノウハウをデータ化し蓄積することで、そのデータが教材となり農業経験の浅い人でも比較的短期間のうちに学習できます。この取り組みはすでに新規就農者の獲得や育成に役立てられています。
ICT・IoTで農業の省力化を実現できた理由
ICTやIoTの導入は、人力では作業が追いつかない広大な土地や条件不利地域での農作業を可能にするため、作業の時間短縮と効率化を図ります。ドローンを駆使して空から畑や水田の状況を監視したり、ハウス内の環境をチェックしたりすることで得たデータを解析し、目視では確認に時間がかかっていた部分を短時間のうちに「見える化」します。農作業の最適化と同時に農業者の負担を減らし、総合的な省力化にも貢献します。
今まで人の手で行っていた収穫作業についても、路面の状態を検知しながら走行する「自動収穫ロボット」が人力とあわせて作業効率をアップさせています。農業用ドローンは空中から農作物を監視するだけではなく、農薬の散布にも使用されています。それまで無人ヘリコプターを使って莫大なコストをかけていたところが、農業用ドローンによってコストダウンと省力化が可能になりました。棚田のように高低差のある水田では、農作物の成長に合わせて潅水施肥を自動実行する「養液土耕システム」で自動供給を行い、灌水と施肥の作業時間と労力を大幅に軽減。ICTやIoTは、作業にかかる時間・コスト・労力のすべてをカットします。
実例として、鹿児島県では専門の農業ドローンオペレータがJA組合員からの作業依頼を受けてドローンによる農薬散布を代行しています。また、ドローンにGPSとカメラを搭載することにより圃場全体のデータを取得して「施肥量マップ」を作成、場所ごとの施肥設計を行って基肥や追肥を実施します。リアルタイムかつ迅速なデータ分析によって、農作業の省力化が実現しています。
農業には経験・知識・体力が必要であることから新規参入が容易ではないイメージがありますが、スマート農業の普及によって高齢者や若い人でも取り組みやすくなると考えられています。今後さらにICTやIoTの導入が進めば、条件不利地域でも無理なく農作物が育てられるようになるでしょう。スマート農業は初めて農業に従事する人の作業とスキルアップを助け、人手不足に悩む地域の重要な労働力となります。人の力だけでは対処しきれない農業の課題は、IT技術を駆使した「スマート農業」で解決を目指しましょう。