農業分野におけるAI・ビッグデータ活用

この記事では、ドローンの空撮画像をもとにした作物の生育状況診断や、温室環境の自動制御といった、農業分野におけるAIやビッグデータの具体的な活用事例を紹介します。
なぜ農業分野においてAIやビッグデータの活用が求められるのか、その必要性についても解説しますので、農業分野のAI・ビッグデータ活用に興味のある方は参考にしてください。

農業におけるAI・ビッグデータ活用の必要性

現状、国内の農業における主要な課題は、人手不足による労働力の低下と、農業経営の大規模化や大区画圃場の拡大に伴う収量や品質の不安定化です。

これらの課題に対して、AI・ビッグデータ活用が有効な解決策になる可能性があることから、必要性が高まっています。

例えば、AIやビッグデータを活用して、ドローンの空撮画像を解析して病害虫を早期発見するシステムを構築すれば、新規就農者でも安定した収穫量が見込めるため、農業就業人口の減少という量的な労働力の低下の解決につながるでしょう。

また、経験と知恵を持っている熟練農家の離農という質的な労働力の低下に対しては、農作物や圃場の状態、気象条件などのあらゆるデータを蓄積してビッグデータ化することによって、従来は言語化が難しかった技術の継承もスムーズになります。

さらに、自動運転の収穫ロボットや可変施肥機、自動環境制御システムなどを活用すれば、圃場の規模を拡大しながらの品質や収穫量の安定化も実現できます。

農業分野におけるAI・ビッグデータ活用事例

農業分野におけるAI・ビッグデータの活用事例を紹介します。

AIによる葉色解析サービス

こちらのサービスは、ドローンで農地を真上から撮影し、水稲の葉色診断をはじめとした各種AI画像解析を行なって圃場管理を効率化するクラウドサービスです。

葉色濃度から生育状況・栄養状態が測定できるという水稲の特性を活用し、葉色診断では水稲の葉色の濃淡をAI解析によって数値化して可視化することができます。

その他に、雑草の発生状況を診断するサービスや、葉物作物の大きさ判定、農地全体の収穫重量予測サービスなども提供することができます。

減農薬栽培を実現するサービス

こちらのサービスは、AIによる画像解析を用いてターゲットを絞った農薬散布を行い、結果として減農薬栽培を実現するというサービスです。

具体的な仕組みとしては、まずドローンで空撮した圃場の画像をAIで解析し、病害虫などが検出された地点にドローンが移動して、農薬などを散布するというものです。

大豆の栽培にこの技術を投入したところ、特定の害虫に対する農薬使用量が90%以上削減され、農薬散布にかかる作業時間も同じく90%以上削減できたとのことです。

このサービスを提供している会社では、この農業分野におけるAI画像解析の技術を応用し、雑草の検知、均一な種まきの技術も提供しており、農業にかかるコストを減らしながら、生育効率の底上げ、収穫物の品質向上などを実現させています。

ビニールハウスの環境を制御するサービス

CO2センサーや温湿度センサー、照度センサーといった各種IoT機器とAIを組み合わせることによって、ビニールハウスの環境を自動制御する農家向けクラウドサービスを提供している企業もあります。

各種センサーから取得した環境データはビニールハウスの環境制御に用いられるだけでなく、生産現場の情報から客観的な収益性評価を行うなど、農業経営支援にも活用されるとのことです。蓄積したビッグデータをもとに、最適化された作業スケジュールや管理リソース計画を作成し、生産性の向上を支援します。

収穫適期の作物を自動で収穫するロボット

収穫適期の作物を自動で収穫するロボットも開発されており、そちらにもAI・ビッグデータが活用されています。

このロボットは、AIを駆使して収穫すべき作物と枝などその他の部位を判別しながら、作物の間を自動走行します。さらに発見した作物に対してAIが画像解析し、収穫適期かどうかを判別することが可能です。なお収穫対象とするサイズは、cm単位で設定できます。

本事例はビジネスモデルとして、収穫量などに応じて利用料が変動する従量課金型を採用しており、RaaS(Robot as a Service)モデルをうたっている点も特徴的です。

環境データを見える化するサービス

こちらは、温室環境に関する膨大なデータと収穫量やエネルギーコストを紐づけることによって、エネルギーコスト削減や収量増加等を実現する農業ビッグデータ活用サービスです。

このサービスを提供している会社では独自のデータ解析ツールを開発・運用しており、そのツールを使うことで統計学やIT、農業の専門知識を持たない人でも需要予測や画像診断などを簡単に実施することができます。

農業分野におけるAI・ビッグデータ活用の具体的な事例を紹介しました。AIやビッグデータの活用は、国内の農業が抱える課題を解決する有効な手段のひとつです。導入には相応の初期コストがかかりますが、それだけの価値がある取り組みですので、可能なところから導入を検討してみてください。農林水産省もスマート農業を加速するための政策「スマート農業推進総合パッケージ」を打ち出しています。

なおICT・IoTを活用したスマート農業による省力化の詳細については、下記記事をご覧ください。
ICT・IoT導入で省力化できる! スマート農業とは