IoT機器を開発する場合、無線通信機能を搭載するには自社で無線パーツを作ることも不可能ではありませんが、それよりも無線モジュールを購入して組み込む方法の方が一般的かと思います。無線モジュールとはどのようなものなのか、活用するメリットや選び方とあわせてご紹介します。
無線モジュールとは
無線モジュールとは、無線チップ、アンテナ、周辺回路などをまとめて小型の基盤に実装した電子部品のことです。通常、通信のためのソフトウェアも搭載しており、機器に無線モジュールを組み込めば簡単に無線機能を付与できるようになっています。
無線モジュールの中にも通信距離によってさまざまな通信規格のものがあります。その中でも数十メートル程度の比較的短い距離で使う近距離通信無線モジュールが採用している無線通信規格には、Wi-Fi、Bluetooth、ZigBee、IrDA(赤外線)などがあります。用途も情報通信機器、車載関連機器、医療・ヘルスケア機器など多様化していますが、最近はいわゆるIoT機器として分類される端末に組み込んで使うニーズが急増しています。
製品開発で重要な技適(技術基準適合証明)とは
電波を利用する無線機器を開発する際は、日本では技適(技術基準適合証明)を取得する必要があります。技適は無線機器が電波法で定めている技術基準に適合していることを簡易な方法(技適マークの有無)で確認する制度です。技適を取得するには、製品の部品配置図などの必要書類やハードウェアを用意し、総務大臣の登録を受けた登録証明機関に申請して承認を得なければなりません。
無線モジュールを利用する場合は、技適マークが付いている製品を購入して使用すれば法的に問題ありません。海外でその国の基準に適合していても、日本では技適を取得していない製品もありますので、海外のECサイトなどから個人輸入する場合は注意が必要です。
また技適以外にも、無線機器は日本国内では一般社団法人電波産業会が定める標準規格(ARIBスタンダード)に任意ではあるものの、実質準拠したものでなければならないという合意があります。こちらも国産の一般的な無線モジュール製品であれば適合したものとなっています。
無線モジュールを活用するメリット
自社でIoT機器を開発するとき、無線モジュールを活用するとどのようなメリットがあるのでしょうか。上で述べた技適やARIBスタンダードに対応するための作業が不要になることもその一つです。さらにその他にも以下のようなメリットが考えられます。
製品開発期間の短縮
無線機器を自社で用意するとなれば、無線回路の設計やソフトウェアの開発も行うことになります。その分、開発ボリュームも膨らんでしまうでしょう。
無線回路を扱うには基盤や周辺回路に合わせたチューニングをするといったアナログ技術が求められます。ノウハウを持っていないとかなりの時間と労力を費やすことになるでしょう。ソフトウェアもファームウェアやアプリケーションソフト、さらは無線の送受信や飛距離を検証する評価ツールの開発も行う必要があります。また無線通信規格に合致したプロトコルスタックも実装することになります。無線モジュールを使えばこれらの作業に要する時間を大幅に短縮できます。
コスト削減
開発ボリュームが大きくなれば開発コストもかさみます。無線モジュールは安いものは1,000円台からあり、目的に合った製品を選べば安価に目的を達せられるでしょう。
また、通信に関するトラブルが発生したときのサポートが受けられることも重要なポイントです。製品開発時に通信機能が正しく機能しなかった場合など、無線モジュールを提供するメーカーからサポートが受けられれば多くの問題は解決できるはずです。経験の少ない会社が自社で無線機能を搭載する場合はトラブル解決までに試行錯誤を重ねることになり、その分、さらにコストもかかります。
無線モジュールの選び方
無線モジュールを選ぶ際は、通信距離、通信速度、消費電力、同時接続数などの条件を絞ってどの無線通信規格が適しているのかを考えていくことになります。それぞれの条件について説明します。
通信距離
まずどれくらいの距離の通信を行うのかを考えます。Wi-Fiは1~300m程度、Bluetoothは1~100m程度、ZigBeeは1~75m程度程度、IrDA(赤外線)は1~10mなど目安となる距離があります。距離が遠ければ電波の出力も大きくする必要がありますが、BluetoothやZigBeeは端末同士を数珠つなぎのようにして電波を飛ばすマルチホップ通信という方法で通信エリアを拡大することも可能です。
通信速度
どれくらいの通信速度を必要とするのかも考慮する必要があります。画像や動画データを送信したい、リアルタイム性を求めるといった要求があるのなら、速度が速い通信モジュールが対象となります。逆に、指定時間ごとに温度・湿度センサで得た温湿度情報を送信するといった目的なら通信速度はあまり気にならないはずです。
消費電力
多くの場合、さきほどもふれたとおり通信距離や通信速度と消費電力はトレードオフの関係にあります。基本的に電波出力が大きくなるほど消費電力も多くなるためです。距離や速度が必要なら、その分、電池を替える頻度も増えるということになります。ただ、これもマルチホップ通信などの方式を活用すれば通信距離を長くしつつ、消費電力を抑えることも可能になります。
同時接続数
1対1接続なのか、1対N接続なのかも重要なポイントです。Wi-FiやZigBeeは1対多接続が可能、Bluetoothは1対7接続まで可能です。また、常時同時接続が必要ないのであれば、接続と切断を繰り返しながら擬似的に多接続を実現するような方法もあります。
IoT機器に無線通信機能を搭載する際、無線モジュールを活用するのが合理的である理由がおわかりいただけたでしょうか。無線機器・無線パーツの開発ノウハウを自社で蓄積したいという場合は別として、現在では多様な規格と種類豊富な無線モジュールを選べることを知っておきましょう。何よりも大事なのは、用途と電波状況そしてメンテナンス性です。データ量や送受信の頻度、消費電力、遮蔽物があるのかどうか、そして運用していけるのか、これらの条件を比較検討することが必要になってくるでしょう。