IoTやAIを活用して現在の都市が抱える課題を解決する、新しいまちづくりが進められようとしています。スマートシティとは何を叶えるまちなのか、国内外の事例も含めてご紹介します。
IoTによるまちづくり「スマートシティ」
スマートシティとは、IoT、AI、ロボット、ビッグデータなどの先端テクノロジーを活用して、エネルギーや交通などの社会インフラ、公共・民間サービスなどの生活インフラを効率的に管理・運用し、都市や地域に関する社会課題を解決しようという次世代都市のことです。
国土交通省都市局は、2018年の「スマートシティの実現に向けて」というレポートの中間とりまとめなどで、スマートシティの定義を「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」と記しています。
スマートシティに関する政策・事業は、国土交通省(都市局、総合政策局)のほか、内閣府(地方創生推進事務局)、総務省(情報流通行政局)、経済産業省(製造産業局)などで実施されています。
スマートシティ化が解決する社会課題
スマートシティ化によって解決が期待される社会課題には、次のようなものがあります。
都市部の人口集中
都市への人口集中の激化は、日本でも世界規模でも大きな課題となっています。ある予測では、2050年には世界の人口の70%が都市に集中するといわれています。過密化した都市では効率的なエネルギー管理、交通渋滞や通勤ラッシュ、犯罪の増加、環境問題などへの対策が急務となります。スマートシティにおいては、IoTによるセンシングやビッグデータのAI分析などを活用し、都市機能を最適な状態に保つことで、これらの課題解決に役立てられると考えられます。
地方の過疎化
上記と裏表の関係にあるのが地方の過疎化です。大都市への生産年齢世代の流出や人口減少が続くと、地域経済の収支が悪化し、インフラ維持のための要員確保が不安定になり、災害時の安心・安全の維持できなくなるといった諸問題を引き起こします。それに対し地方都市のスマートシティ化が進めば、大都市との情報格差の減少、テレワークなどによる就業・勤務スタイルの変革、スマートモビリティによる移動課題の解決、災害情報の精度向上と共有の容易化などが進むことが期待されます。また、地方の製造業や農水産業のスマート化も新たな就業機会の創出につながるはずです。
少子高齢化の進行
日本は世界でも最も急速に少子高齢化が進んでいる国の一つです。少子高齢化は労働力不足だけでなく、高齢者を中心とする人々の快適な生活維持にも影響を及ぼすでしょう。労働力不足に対しては、AIやロボットが各種業務を代替するようになることで解決の糸口が見出だせると期待されています。さらにスマートモビリティによる快適な移動、遠隔医療システムの拡充、ウェアラブルデバイスによるバイタル情報の収集・健康管理、自然との共生、安心・安全な環境整備など、スマートシティには高齢者が暮らしやすいまちづくりというコンセプトも盛り込まれています。
国内外のスマートシティ事例
現在すでに、国内外で国や自治体、民間企業によるスマートシティ実現に向けた取り組みが進行しています。ここでは3つの事例を紹介します。
自動運転車が走行するまち
静岡県内の富士山の裾野に「ウーブンシティ」と呼ばれる実験都市を作る計画が進んでいます。大手自動車メーカーの主導により約70.8万㎡の範囲でまちを建設、初期には同社従業員やプロジェクト関係者など約2,000名が住んで実証実験を行うというものです。
自動運転、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、ロボット、AIなど最新の技術を盛り込んだまちになりそうですが、中でも注目されているのが歩行者専用道、歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存する道、自動運転車が走行する道の3つの道路が網の目のように織り込まれたまちという設計思想です。将来は全国にウーブンシティが点在して作られ、都市間を自動運転専用の高速道路網がつなぐようになるとの構想も明らかになっています。
柏の葉スマートシティ
千葉県柏市では公・民・学の連携によるスマートシティづくりが推進されています。まちづくりのテーマは「環境共生」「健康長寿」「新産業創造」で、データ駆動型の「駅を中心とするスマート・コンパクトシティ」を作るとされています。そのために民間データ・公共データを連携したデータプラットフォームを構築し、データの分析・利活用による新たなアプリケーションやサービスの創出にも取り組んでいます。
2022年にはがんの治療と研究を支える宿泊施設が開業予定となっており、5GやITを活用した新たな診療モデルを創出、新たなライフサイエンス拠点の形成を推進するとされています。
ニューヨークの試み
海外では、欧米や中東などの各地で都市のスマート化を実現する試みが行われています。
アメリカのニューヨーク市ではまず、市が保有する1,000種類以上の情報を公開するオープンデータポータル「NYC Open Data」を設置。誰もが自由に活用できるデータを公開することで市政への理解を得るとともに、データを利用した革新的アプリケーションやシステムの開発などを促しています。
また、既存の公衆電話をWi-Fiスポットへと変えるプロジェクト「LinkNYC」という試みもユニークです。Linkでは大型タッチスクリーンを通して地域情報や交通機関の確認、国内電話の無料通話などが行える機能が搭載されています。
さらに、「ハドソン・ヤード再開発プロジェクト」というマンハッタン最大級の大規模再開発では、IoT/AI技術を用いた歩行者の流れ予測、地域住民の健康状態や行動レベルのモニタリング、ごみのリサイクル評価などのスマートシティ機能の導入が進められています。
スマートシティという未来の都市を作り上げるビジョンを実現するため、まちづくりにもIoTが活用されています。スマートシティによって私たちの生活がどう変わり、どんな新しいビジネスが生まれるのか、今後の動向に注目しましょう。