危険な作業や進捗管理など厳しい環境の多い建設業では、IoTソリューションの活用によって新時代の働き方改革が期待されています。ここでは、建設業におけるIoTの導入について、メリットや実際の事例を紹介します。
建設業における働き方改革
現在、建設業界は人手不足という難問に直面しており、労働生産性の向上のための対応が急がれています。慢性的な労働者不足を解消するためには思い切った「働き方改革」が必要となり、現場離れを防ぐ上でもIoTの活用が期待されています。
建設現場では実際に作業する人を助けるものとしてIoTの活用が進められています。作業に必要なタスクをシステム側が提案して一日の作業の段取りや手順の効率化を行ったり、作業が遅延するリスクを早期に検知し知らせたりすることで、人の手が入る部分を自動化したり、労働時間や作業の無駄を減らします。
IoTを活用すれば、作業員の体調管理や現場環境ごとのリスクを判断してアラートを出すといった作業もシステム側で行うことができます。長時間労働が起こる原因を分析して原因を精査し改善を重ねれば、作業員の満足度向上や総合的な働き方改革にもつながっていくでしょう。
原価管理についても機材の稼働率のチェックと分析を自動で行い、誰もがひと目で確認できるように可視化をします。書類作成を自動で行い、データやグラフなどと合わせて出力すれば、人手不足の現場でも高い生産性が確保できます。
現在、このIoTと「ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術」を組み合わせた「i-Construction」が新たな取り組みとして打ち出されています。i-Constructionは、建設現場における測量・設計・施工・検査・管理までのすべてのプロセスにICTを取り入れて生産性の向上を図るというもので、国土交通省が奨励する取り組みのひとつです。
たとえば、現場の土地や位置関係をドローンなどで3次元データとして分析し、そこから施工量を自動的に算出します。施工現場には自動制御のICT建機を入れて、安全かつ確実に作業を進めます。このポイントは、データがすべてのプロセスで共有されるということです。データ形式が標準化され、共通のプロトコルで通信ができるようになることで、すべてのプロセスでデータ参照や入力ができるようになり、個人の頑張りに依存せずに施工ができるようになるのです。
モノとインターネットがつながる「IoT」と、コンピュータ技術を活用して情報を伝達・共有する「ICT」が組み合わせられることにより、建設現場の環境改善や課題の解決につながると考えられています。
建設業でIoTを導入するメリット
建設業がIoTを導入すると、安全性の担保という面で多くのメリットが期待できます。ドローンで測量を行う、重機や建機を自動化してヒューマンエラーを防ぐといった直接的な活用方法のほかに、日数と工期を減らして今までと同じ量の工事を実現させることも可能で、作業員にかかる実務上の負担が減らせます。労働時間が減れば残業や休日出勤の負担がなくなり、作業員の安心感や安全性の確保につながります。
コスト削減という意味でもIoTは大きな役割を果たします。部材にICタグを取り付けることで必要な部材がすばやく選び出せるようになり、在庫数のチェックや発注がスムーズになります。作業の一部をオートメーション化することで人的なコストも削減できるため、IoTとICT技術をうまく組み合わせれば莫大な時間と費用が削減できます。
作業に使う機器や設備にIC端末を取り付けてリアルタイムに稼働状況を把握し、毎日の稼働状況のデータをビッグデータとしてAI(ディープラーニングや機械学習など)で分析すれば、不具合が起きるタイミングが予測しやすくなります。このプロセスによって思わぬ事故や突然の稼働停止を未然に防ぐ「予知保全」が可能になります。設備機器の故障にも計画的に対処できるようになり、作業の突発的な中断とそれにともなうタイムロスや金銭的な負担が減らせます。
建設業におけるIoT導入事例
実際に建設業に導入されている事例としては、設備機器にセンサを取り付けてリアルタイム監視を行ったり、ドローンによる上空からの測定・分析、危険な現場でのロボットの活用がすでに始まっています。現場の資材や機材の位置把握・維持管理・工事の進捗状況の計画にもIoTが取り入れられています。そして建設時のデータをクラウドで保管しておくことで、瑕疵が出た場合の修復の手助けにもなるのです。
近年では労働災害による事故を減らすための取り組みとして、作業中に危険なエリアに人が入り込まないようにIoTで監視を行い、万が一人が死角に入り込んだ場合に現場監督者や作業中のオペレータに通知をして注意喚起を促す試みも行われています。
建設業は人手不足が深刻な業種であり、危険な環境や負担のかかる作業が多いために、ICT・IoT技術は欠かせないものとなっています。現場レベルでIoTソリューションを導入すれば、手間のかかる作業を効率化して、本当に必要なところに人員を割り振れるようになります。
IoTは作業員の安全確保や設備機器の保全、さらには竣工後のメンテナンスにも役立つ技術として今後もさらに導入が進んでいくと考えられています。ぜひ積極的に取り入れていきましょう。