コスト削減も期待できる? IoTを活用したビル管理

IoTを活用したビル管理の可能性が広がっています。コスト削減効果が期待できるほか、エネルギー管理が容易化される、快適なビル内環境を維持できるといった点も見逃せないメリットです。IoT活用によるビル管理について、活用事例もまじえながら解説します。

IoTでビル管理のコスト削減?

スマートビルディングなどのIoTを活用したビル管理システムが注目されています。スマートビルディングは主にオフィスビルや商業ビルを対象として、建物内の電力、空調、水道などのインフラや各種設備をIoTによってモニタし、ネットワークを介して一元管理するシステムです。それ以外にも、IoTを使って設備点検やエネルギー管理をサポートする、あるいは不審者などの侵入監視をするようなシステムもあります。

ビル管理というと、従来は人が施設などを巡回点検し、正常に作動しているかどうかをチェックし、問題があれば修理の手はずを整え、定期的にメンテナンスを行うといったものが一般的でした。しかし、たとえばIoTを活用した設備点検システムを導入すれば、設備の遠隔監視や異常検知が可能になります。そのため作業員の負担が減り、人員を減らすことで管理コストが削減できる可能性があります。

節電などビルエネルギーの管理については、これまではビル管理担当者(管理会社)と実際に使用する人たちによる、これも人力に頼る工夫や心がけによって行われてきました。ところが昨今では「BEMS(ビルエネルギー管理システム)」というIoTを利用した屋内環境とエネルギー性能の最適化を図るシステムが普及し始めています。このBEMSによっても電力使用量の削減、ひいては電気料金の削減が期待できます。2015年度の資源エネルギー庁の試算によれば、BEMSを導入した建物は約10%のエネルギー削減効果が見込まれ、2030年にはさらにBEMSの活用が進むことによって、国内で削減されるエネルギーは約235万kLとなるとされています。

ビル管理にIoTを活用するメリット

ビル管理にIoTを活用するメリットは、コスト面だけではありません。以下、主なメリットを見てみましょう。

ビル全体のエネルギー最適化ができる

BEMSに代表されるビルエネルギー管理システムによって、ビル内の空調、配電、照明、換気などの設備の電力使用状況が可視化されます。また、設定した最大デマンド値を超過しそうなタイミングで電力使用を抑える、使用していない設備の電源の停止や調整をする、設備稼働時間帯のシフトなどによって電力使用のピークタイムを変更するなどの最適化を自動で行なうことも可能です。

このことはコスト削減にもつながりますが、エコ化による地球温暖化防止などの環境問題解消に貢献できるというメリットもあります。

快適で安心安全なビル内環境を維持できる

IoTを活用して建物内の温度、湿度、CO2濃度などを常時測定し、空調や換気を最適な状態に保つというソリューションも登場しています。CO2濃度が高くなると人間の集中力は低下しますが、その微妙な変化を人間が感知するのは困難ですし、換気を適切に行うことで「換気の悪い密閉空間」という感染症のりクス要因を減らすとも言われています。また、ビル内の照明を時間帯や外の明るさに応じて自動調節するシステムもあります。夜間は人感検知モードに切り替わり、不要な場所では自動的に消灯するといった動作をさせることも可能です。

これらのIoTによる空調・換気や照明の自動制御は、オフィスなどで働く人たちの業務効率や生産性の向上を促すでしょう。ビル内環境が快適に保たれることで、健康維持にも役立つはずです。

不審者侵入・災害・故障対策

IoTによる監視システムを不審者などの侵入対策、火災・地震などの災害対策に利用することもできます。トラブルを検知して自動的に警備会社に通報する、アラートを鳴らすなどの対応を行うことで、ビル内の安心・安全を確保することができます。また、設備などの故障をいち早く見つけて知らせる機能も便利です。

ビル管理へのIoT活用例

最後に、IoTを活用したビル管理の具体的なイメージがつかめるような事例をご紹介します。

賃貸オフィスビルにBEMSを導入

10階建ての賃貸オフィスを経営するビルオーナーが、テナント各社の電気使用量を適切に保ち、省エネ・節電を実施できるようにとBEMSを導入。それまでは照明のLED化やテナントへの呼びかけ、目視と手動による電力デマンド管理などで省エネを実施してきたものの、効果がどれくらい上がっているのかの把握すら難しい状況でした。そこでBEMSによってフロア単位での使用電力量を見える化し、テナント各社とオーナー双方でモニタできるように。さらにデマンド値を超えそうになるとスマートフォンに通知が来る仕組みを整備しました。その結果、節電効果が目に見えてわかるようになり、電力使用量も数%減少したとのことです。

遠隔監視による給水管の故障検知

オフィスビルの壁面緑化を遠隔監視するシステムを導入。過去に給水管が故障して水が流れず植栽が枯れてしまったことから、自動給水と故障検知を同時に実現することにしました。給水管に電磁弁、水圧センサー、流量計を取り付け、それらのデータをインテリジェンスコントローラで取得してクラウドに送信できるように。また、電磁弁はスケジュールで開閉するようにし、状態もモニタできる仕組みを作りました。異常が起きた場合はアラートがメールで届くようになり、以降、壁面緑化のメンテナンスの利便性が大幅に向上しました。

オフィスへの不審者の侵入監視

オフィスへの不審者侵入を防ぐシステムは以前から利用していたというA社。エントランスとエレベータホールには監視カメラがあり、モニタ監視と録画が可能、オフィス内に入室する際は社員証をかざす入出管理システムを設置という体制を整えていました。しかし、なりすましや代理チェックイン・アウトが可能だったことから、防犯システムを強化。監視カメラはAIによる画像解析ができるものに、入出管理もAIによる顔認証が行えるものへと変更することにしました。その結果、あらかじめ顔情報を登録した人物を検知・検索できるようになり、さらに未登録の不審な行動をする者が映っていた場合にもAIが解析してアラートを発する仕組みが整いました。

以上のように、IoTはビル管理にも活用されるようになっています。総合的な機能を持ったスマートビルディング化を推進するだけでなく、用途に合わせた部分的な導入も可能なので、積極的に取り入れていきましょう。