全国の小学校・中学校で、1人1台、タブレットなどの端末の配布が進んでいるというニュースをご覧になった人もいるでしょう。教育現場のデジタル化・オンライン化が進むと、その先にはIoTの活用が待っているともいわれます。IoTで教育の現場はどのように変わろうとしているのか、現在の状況や今後の展望などについてご紹介します。
教育現場のIoT化とEdTech
センサなどを備えたさまざまなモノをインターネットに接続し、データを収集・分析して活用するIoT。教育分野にもこのIoTを導入しようという試みが始まっています。
テクノロジと教育を融合させて教育分野の変革を促すムーブメントを表す言葉として、「EdTech(エドテック)」があります。近い将来、デジタルテクノロジの劇的な進化が教育の仕組みやビジネスモデルにイノベーションを起こすとして、EdTechは国内外で注目されています。ここ数年、イギリス・ロンドンで毎年開催されている教育テクノロジの国際コンベンション「BETT Show」には、世界146カ国以上からEdTech関連の企業や団体が参加しています。
教育現場のIoT化は、そのEdTechの一環として進められることになるでしょう。もちろん、IoTだけではなくAI技術なども組み入れられるはずです。IoT自体は工場などの生産現場、物流、医療、農業、交通などの分野で導入が進んでいます。IoT家電なども徐々に身近になってきました。教育現場にもその波は押し寄せ、新しいビジネスが始まろうとしています。
日本の学校におけるIoT化の現状
日本の学校におけるIoT化は、世界的に見てとくに先進的な状況にあるとはいえません。しかし、例えば文部科学省が2019年12月に発表した「GIGAスクール構想」はここへ来て徐々に形になりつつあります。
GIGAスクール構想の目的は、Society 5.0時代に生きる小中学生に対し、誰一人取り残すことのない「公正に個別最適された学び」を提供し、創造性を育むことにあります。そして具体的に義務教育を受ける児童生徒を対象に1人1台の学習用端末を配布し、高速ネットワーク環境などを整備するという短期目標が掲げられました。
学習用の端末の詳細ついては文科省が標準仕様書を用意しており、その仕様書にはWindows 10 Pro相当搭載PC、Chromebook、iPadが挙げられています。各自治体は学習用端末を、この3つの中から目的に応じて選択するように記載されています。
当初、この短期目標は5カ年計画により2023年に達成させる予定でした。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による休校措置を受けて計画が前倒しされ、2021年3月末までに端末の配布を完了する運びになりました。2021年3月に文部科学省から公表された資料「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備の進捗状況について(速報値)」によると、全自治体などのうち、2020年度内に納品を完了する見込みとなっているのは1,769自治体等(97.6 %) とのことです。ここでいう納品の完了とは、児童生徒のもとに学習用端末が届いて教室などにインターネット環境も整えられ、学校で端末を使用できるようになった状態です。
このことにより、全国の学校でタブレットなどを使ったオンライン授業、オンライン教育が始まっています。端末が行き渡ると、その次には学習者用デジタル教科書が普及するともいわれています。ただ、学校のデジタル化・オンライン化の進み具合には学校ごとにまだバラツキがあり、浸透には今しばらく時間がかかると見るのが妥当でしょう。
IoT化は、こうしたデジタル化・オンライン化が十分に進んだ後に実現すると考えられます。そこに行き着くにはいくつものハードルがありますが、その第一歩が踏み出されたことは間違いありません。
教育×IoTの展望
教育現場のIoT化によってどのようなことが実現できるのか、現在考えられていることを紹介します。
児童生徒の学習履歴データの蓄積と活用
学習履歴データを蓄積し、AI技術などを使って分析して、児童生徒一人ひとりに最適化された個別カリキュラムや指導方法を提供するといった仕組みも作られていくでしょう。IoTセンサが入った教材で学習している児童生徒がどこでつまずいたのかを把握し、一人ひとりの学びをサポートしたり、全国の児童生徒が共通してつまずいている箇所を横断的に把握し、カリキュラムの刷新や教える順序や方法を修正したり出来るようになります。すでに、総務省による「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」において、教職員のみが用いる「校務系システム」と、教職員と児童生徒の双方が用いる「授業・学習系システム」との間で、安全かつ効果的にデータの受け渡しを行う連携方法についての実証事業が始まっています。
VR技術を導入した体験型学習
VR技術を活用すると、遠く離れた美術館や博物館、普段立ち入れないような場所、完全に非現実的な空間などに入り込んで体験型学習をすることができます。失敗が許されるシミュレーションによって試行錯誤し、発見や気づきを得ることもできるでしょう。ゲーミフィケーションや没入型コンテンツの活用によって興味や探究心を喚起し、従来方式にはない高い学習意欲が得られる可能性もあります。
障がいを持つ児童生徒のサポート
IoTは障がいを持つ児童生徒に学習の機会を与えることに役立つ可能性があります。人に意思を伝えるのが難しい子供のためのコミュニケーションアプリ、心臓の鼓動を利用して認証し、手を振るなどのジェスチャで機器の操作ができるリストバンド型ウェアラブル、脳波を感知するヘッドセットなどがすでに存在し、これらを組み合わせればインクルーシブな新しい形の教育を行うことができるかもしれません。
いじめの監視や防止
学校内などでのいじめの監視、報告、相談、警告、事案管理などの機能を持つ製品やシステムも考えられます。チャット形式で匿名報告・相談ができるいじめ防止に役立つスマホアプリはすでにあり、その試みで蓄積されつつあるナレッジも今後活かすことができるはずです。
体温センサによる体調管理
児童生徒の体温をモニタし、インフルエンザ流行のきざしなど素早く検知するシステムも実現するでしょう。異常を検知した場合は速やかに保護者へ自動連絡することも可能です。コロナ禍により、非接触型のスマート体温計や自動体温測定機も多く開発されています。
EdTechが注目され、GIGAスクール構想が実施されることなどにより、今後、教育現場のIoT化が急速に進むことも考えられます。IoTが教育に何をもたらすのか、その動向に注目しておきましょう。