AI、機械学習、ディープラーニングといった用語は、ときとしてどれも同じような意味で使われたり、違いがよくわからないものとして捉えられたりする傾向があるようです。しかし、この3つはそれぞれ明らかに違う意味を持つ言葉です。AI、機械学習、ディープラーニングについて整理し、違いを説明します。
AIとは
AI(人工知能)とは、人間の知的な行動をコンピュータに模倣させる技術のことを指します。これには、認識、推論、学習、問題解決、対話などの能力が含まれます。
人工知能には、特定のタスクを解決するために設計されたアルゴリズムから、広範なタスクを解決できる自己学習型のシステムまで、非常に幅広い範囲のものがあります。
機械学習とは
機械学習はAIの一分野であり、アルゴリズムによって大量のデータからパターンを学習し、その知識を用いて未知のデータを予測、分類、解釈する技術です。この手法により、人間が明示的にプログラムしなくても、システムは自ら新たな情報を学び、知識を獲得し、自己改善する能力を得ます。
主な方法論には教師あり学習、教師なし学習、強化学習などがあり、顧客の購買履歴データを学習し、その顧客が次に購入する可能性のある商品を予測するなどのタスクが可能です。
ディープラーニングとは
ディープラーニングは深層学習とも呼ばれ、人間の脳の神経ネットワークを模倣したニューラルネットワークと呼ばれる分析構造を構築する、機械学習の手法のひとつです。
画像認識や自然言語処理、シミュレーションなどのタスクで特に優れた結果を示しており、最近のAIの進歩の大きな推進力となっています。自動運転や医療研究など、幅広い分野で活用されています。
AIの歴史:AI登場~第2次AIブーム
AI、機械学習、ディープラーニングは、それぞれ独立した技術や概念ではなく、密接に関連しているため、違いを理解する上で歴史を振り返ることが非常に有効です。歴史的な視点を持つことで、各技術の特性と役割、そしてそれらがどのように結びついているかを理解することができるでしょう。
AI(人工知能)という言葉が初めて使われたのは、1956年に開催されたダートマス会議でのこととされています。
それ以前にも思考機械などと呼ばれる知的な振る舞いをする機械に関する考察や思弁は行われていました。現在のAIにつながる概念自体は、「チューリングテスト」や「チューリングマシン」で知られるアラン・チューリングが1947年にロンドン数学学会の講義で提唱したのが最初との見方もあります。それから9年後、数名の著名な科学者が集まって開かれたダートマス会議では、ジョン・マッカーシーが「Artificial Intelligence」という用語を使うことを提案し、アレン・ニューウェルとハーバート・サイモンが最初の人工知能プログラムと言われるロジックセオリスト(Logic Theorist)のデモンストレーションを行いました。
その後、1950年代後半~1960年代には第1次AIブームが起こります。この時代には「推論」と「探索」を行うプログラムが開発され、パズルや迷路、チェスなどを解くAIが登場しました。ただし、その実力は明確なルールと限定的な条件下でのみ発揮されるものでした。それでも1966年には初の自然言語処理プログラムである「イライザ(ELIZA)」が誕生しています。
1980年代には第2次AIブームが起こります。この時代にはコンピュータに「知識」を組み込むとルールの存在しない現実問題に対応できるという「エキスパートシステム」が登場して一部実用化されました。しかし、エキスパートシステムは自ら学習することはできず、知識の入力は人間が手作業で行うしかありませんでした。また、例外処理や矛盾したルールにも対応できず、ブームは終息して冬の時代に入りました。
AIの歴史:機械学習・ディープラーニングの登場
そして2010年代には、現在の第3次AIブームが幕を開けます。
まず登場したのが「機械学習」という手法です。機械学習では、コンピュータがビッグデータのような大量のデータの中から法則性やルールを見つけ出し、分析(分類)や予測を行います。事例となるデータを反復的に参照しながら一定のパターン、特徴を見出し、新しいデータに適用してタスクを遂行するため、コンピュータが「学習する」と呼べる状況を作り出せるようになりました。
機械学習アルゴリズムには人間がラベル付けしたデータを使用して訓練する「教師あり学習」、ラベルなしのデータを与える「教師なし学習」、アルゴリズム自身に最適なゴールへの到達方法を学習させる「強化学習」の主に3種類があります。また、機械学習の用途としては、メールのスパムフィルタやインターネットショッピングなどの商品レコメンド、カメラの顔認識・顔認証などが挙げられます。
機械学習は現在の第3次AIブームを支えるAI技術の中の一つです。機械学習=AIと捉える人もいますが、これは機械学習が新しいビジネスチャンスを生み出す実用的な技術として認識されるようになったことからくる混同と言えるでしょう。AIという用語、概念は以前からあり、時代とともに関連した新しい手法や技術が出現してきたことは既述のとおりです。
機械学習をさらに発展させた「ディープラーニング(深層学習)」も、今のAI技術を代表する手法として知られています。ディープラーニングは人間の脳の神経細胞(ニューロン)を模したニューラルネットワークをベースとしたシステムを用いて学習を行い、ニューラルネットワークは特徴量の設定や組み合わせを自ら考えて決定してパターン認識を行うよう設計されています。
ディープラーニングには大量のラベル付けされたデータと高度なコンピュータ処理能力が必要ですが、大量の画像、音声、テキストなどのデータから、ときには人間以上の高い精度で条件に合ったものを見つけ出せます。ディープラーニングの応用例には、自動運転、ロボット工学、がん細胞を検出するような医療画像処理、音声翻訳、人の声に反応して機器の操作や情報・サービスの提案をするAIアシスタントデバイスなどがあります。
2010年代の後半、自然言語処理の領域においてもAIの力が大いに発揮されるようになりました。特筆すべきは、大規模言語モデル(LLM)を活用したAIチャットサービス「ChatGPT」の登場です。
GPT(Generative Pre-trained Transformer)は、インターネット上の大量のテキストデータを学習し、人間が書いたような自然なテキストを生成する能力を持っています。GPTをチャット形式で利用できるようにしたChatGPTは、人間と対話する形で多様な情報を提供することができ、その対話能力は日々向上を続けています。
機械学習とAI、ディープラーニングの違い
ここでは、機械学習とAI、ディープラーニングの違いについて改めて解説します。
まず、3つの用語の中で最も広範な概念がAIです。AIは人間の知能を模倣し、論理的な推論、問題解決、学習、自然言語理解といった知的なタスクを遂行するシステムの総称と言えます。
AIに内包される概念が機械学習です。機械学習はAIの実現手法の一つであり、大量のデータからパターンを見つけ出し、学習することで知識を獲得し、未知のデータに対する予測や分類を行います。
そして、機械学習よりもさらに内側に位置するのがディープラーニングです。ディープラーニングは機械学習の一種であり、深層ニューラルネットワークを用いて複雑なパターンを自動的・自律的に学習します。
これら3つの違いはそのスコープや応用範囲にあり、機械学習とディープラーニングはAIを実現する手法の一部として位置づけられます。
AIのこれから
現在、AIはさまざまな分野に導入され始めていますが、まだまだ発展途上にあります。AIの学習能力が強化され、認識力や分析力を高めていくと、もっと多くのことができるようになるでしょう。ロボット技術との組み合わせによって、自ら考えながら作業をこなす存在になっていくとも考えられます。
将来、進化したAIはホワイトカラーの仕事を奪い、ロボットはブルーカラーの仕事を奪うという予想もあります。人工知能研究の権威であるレイ・カーツワイル博士が提唱する未来予測の概念「シンギュラリティ(技術的特異点)」の到来も気になるところです。AIが人間の知性を超越すると予測不可能な領域に到達するとされ、その時期は2045年とも言われています。シンギュラリティ以降のAIは自分の手でより優れたAIを生み出すようになり、もはや人間には理解し難い知的存在へと進化していくかもしれません。
しかし、2045年にシンギュラリティが起こるというのはあくまで仮説の一つです。AIは脅威ではなく、現在のコンピュータと基本的にはそれほど変わらない、未来社会を便利にするためのツールであり続けるという可能性も十分にあるでしょう。ただ、それでもAIが社会や我々の生活の中にどんどん深く浸透してくることは容易に想像できます。自動運転などに代表されるように、これまで人の手で行っていた作業をAIがカバーし、代わりに行うようになっていくのは間違いのないところでしょう。
AIや機械学習、ディープラーニング関連の技術は驚異的なスピードで発展し、今も飛躍を続けています。それらをすべて把握するのは非常に困難ですが、これから社会や生活、ビジネスにどのような変化が起きるのかを見きわめるには、まずはAI、機械学習、ディープラーニングの違いなど、AI技術に関する基本的なことを正しく理解するところから始めることが重要です。