IoTというワードはいまや広く知られるところとなっています。しかし一方で、何が実現できるのか、どのような仕組みで成り立ち、どんな活用方法があるのかなど、いまひとつピンと来ないという人もいるのではないでしょうか。IoTの現状や今後について、わかりやすく解説します。
IoTとは
IoTは「Internet of Things」の略称であり、「モノのインターネット」と訳されます。IoTによってさまざまなモノがインターネットとつながることで、モノから情報を収集・蓄積し、その情報を分析して状況に合わせて対応する、あるいは新たな価値を創造することが可能になります。
具体例を挙げてみましょう。身近なところでは現在、エアコンや空気清浄機、照明、時計、ペットの見守り家電、家電操作リモコン、スマートスピーカー、スマートロックなどのさまざまなIoT家電が販売されています。
IoT家電はインターネットに接続されているので、その多くがスマートフォンで外出先などからでも操作ができます。あるいはユーザーのライフスタイルや好み、温度や気候などの条件に応じて自動的に温度や明るさを調整する機能を持つ製品もあります。家全体が統合的にIoT化されると、家電や設備の自動コントロール、セキュリティ強化、リモート監視・操作などが可能となります。こうした家はスマートホームとも呼ばれます。
IoTの仕組み
IoTを構成するのは、主にデバイス、ネットワーク、クラウドの3つです。
デバイスはモノであり、センサーやアクチュエーター(フィードバックされた指令に従ってアクションを起こすモーターなどの装置)を備えています。センサーがさまざまな情報を計測・数値化して取得することをセンシングと呼びます。
ネットワークにはWi-Fiや3G/4G(LTE) /5Gなどのモバイルデータ通信、LPWAと呼ばれる省電力・広範囲・低コストの通信などがあります。インターネットや、閉域網と呼ばれるクローズドな通信も利用されます。
デバイスからネットワークを介して送られた情報はクラウドのストレージに蓄積されます。また、クラウド上のアプリケーションによって見える化や分析予測がなされ、それにもとづいてデバイスの制御などが行われます。ビッグデータなどの膨大な情報の解析にはAI技術が用いられることもあります。あるいは処理されたデータが企業のサーバーなどに送られ、人間がデータを参照して何らかの判断を下すケースもあります。
こうした仕組みにより、IoTではモノの状態管理、モノの操作、モノの動作検知などが実現されています。また、IoTの一分野ともいわれる機械と機械が相互通信するM2Mという技術を利用すれば、機械による機械の自動制御も可能です。
IoTのメリット・デメリット
IoTはユーザーと企業にさまざまなメリットをもたらします。一方でデメリットや課題として指摘されているポイントもあります。それぞれ説明します。
IoTのメリット
IoTはユーザーに多くの利便性をもたらします。離れた場所からでも家の中の状態や状況を確認できる、操作できる、家の中にいてもスマホ操作や音声操作で家電や設備をコントロールできる、IoTに任せて自動調整もできる、といったことはどれも便利な機能として受け入れられています。またIoTは機器の消耗部品の事前交換、故障予知、機能改善などにも役立ちます。
企業側はそれらIoT機器の利用状況や操作状況からユーザーニーズを知ることができます。情報を分析することで生産する種類や量を調整したり、新たな商品開発に活かしたりすることも可能です。
また、作業効率や生産効率の向上、コスト削減につながるのも大きなメリットです。わかりやすいのは製造工場のIoT化です。生産ラインの稼働状況をリアルタイムで常時モニタリングし、管理・制御できるため、余剰人員や余剰在庫を抱えることなく最適化された生産体制を構築できます。
IoTでは、人間の生活のそばにあるモノとモノとがネットワークでつながることで、今までに自動で取得できなかったデータを取得し蓄積できるようになります。人間の生活や意思決定は複雑なので、今までは暗黙知として判断のクライテリアがわからなかったことについても、データ化・定量化、モデル化ができるようになる可能性があります。
例えば、人間国宝や伝統工芸士、ものづくりの匠が、無意識に行っている事をデータ化し分析することで、技の伝承が可能になることも考えられるでしょう。普段は、この角度でノミを入れるが、気温や湿度が違うと、この角度にズラしてノミを入れている、といったことまで可視化できるようになるのです。
IoTのデメリット
IoTが普及するにつれ増加すると予測されるのがIoTをターゲットとしたサイバー攻撃です。すでにIoT機器に感染するマルウェアが複数存在し、企業サーバーへのDDoS攻撃などが仕掛けられる事例が増えています。近い将来、通信内容の傍受、ユーザーのプライバシーに関わる情報の漏えい、IoT機器の乗っ取りなども大きな脅威になることが懸念されます。
これに対し、IoTに特化したセキュリティ対策に関しても開発が進んでいます。今後、デバイス、ネットワーク、クラウドのいずれにおいてもセキュアな環境が構築されているかが、IoTの品質を左右する大きなポイントとなっていくでしょう。
IoTの活用方法
IoT化の流れは家電など家の中にあるモノだけにとどまりません。すでに現在、以下のような分野でIoT活用が広がっています。
農業
農産物の生育状況をセンシングし「見える化」することで、病気の発生防止、最適な収穫時期の予測、品質向上などを実現。出荷直前の畑の監視も可能です。
工場
生産ラインの稼働状況のセンシングと分析によって効率的な生産管理、在庫管理が可能に。生産設備の消耗品を監視することなどで不良品率を下げ、品質管理にも貢献。工場内の警備にも役立ちます。
建設
建設現場の監視による安全管理、進捗管理、防犯・監視が容易に。建設現場の工場化を推し進めることで生産性向上やコスト削減が図れると期待されています。
医療介護
バイタルデータ(生体情報)のセンシングによる健康管理を推進。高齢者などの見守りサービスも始まっています。
店舗
カード決済端末、POSシステムとの連携により、商品データ管理、販売データの蓄積などに活用できます。映像の分析によるマーケティングソリューションも開発が進んでいます。
IoTの活用事例
さまざまな業種で導入が進むIoT。ここでは、企業や自治体におけるIoTの活用事例をより具体的に見ていきましょう。
建設業における安全管理
建設現場で働く作業者のヘルメットにセンサデバイスを取り付け、作業者の脈拍、活動量、周辺の温度・湿度などのデータを取得。収集したデータを解析し、異常値を感知した場合にメールやブザーで通知するなどして、作業者が安全に働くことができる環境の確保に成功しています。特に夏場などの暑熱環境下での作業で、熱中症予防などの高い効果をあげているようです。
物流業における倉庫管理
大手コンビニの物流倉庫では、入庫から出庫までの流れを一元管理できるシステムを導入。以前は入庫・出庫情報や在庫情報などは、エクセルなどを使った手入力で行われていましたが、IoT化したことによって入力ミスなどのヒューマンエラーを最小限に抑え、より正確な商品管理が可能となりました。
千葉県柏市における自殺・いじめ防止
千葉県柏市では、教育現場にIoTプラットフォームを導入して匿名でいじめなどの悩みを相談できる仕組みづくりを行っています。パソコンやスマホから文章を送って相談することはもちろん、証拠写真などの添付も可能。寄せられた相談に、教育委員会などが速やかに対応することで、子どもたちのいじめや自殺予防の効果があります。
介護現場における業務負担の軽減
広島県の介護施設では、IoTシステムを導入したことによって、これまで紙ベースで行なっていた介護記録の作成や、手入力で行なっていた請求業務などの膨大な業務の負担を大幅に削減することに成功しています。介護記録はデータが蓄積されてくため、一人ひとりに合ったより良い介護サービスの提供が可能となりました。
飲食業における店舗管理
大阪府の飲食店では、IoTシステムの導入によって複数ある系列店舗の管理を一元化することができるようになりました。それぞれの店舗の混雑具合をまとめて把握することができ、人手が必要な店舗にスタッフを回すなど、効率的な店舗運営を行っています。また、各店舗では注文を手書きの伝票からタブレット端末へ移行したことで、注文間違いなどの人為的ミスを軽減。結果的に生産性向上を実現しました。
今後も進化が見込まれるIoT
今後さらにIoT化が進んでいけば、居住空間、店舗、工場、農業や建設の現場、医療環境、街のそのものも今より便利で安全なものへとアップデートされていくでしょう。人々のライフスタイルもそれに合わせて変化し、社会も新たな局面に入っていくと考えられます。
IoTが進化するにつれてこれまでになかったような新しい製品やサービスも生まれるでしょう。その中には高度な技術を結集したような商品だけではなく、日常生活の中で使用される身近な商品や、ニッチな商品も含まれるはずです。
IoTはセキュリティに注意が必要
M2Mは機械同士の通信で、元々クローズドなネットワークと独自プロトコルを使っていたのでセキュリティについてはあまり気にしなくても問題はありませんでした。しかし、IoTの世界になってきて、オープンなネットワークに接続されたり、プロトコルも標準的なプロトコルを使うようになったため、IoT活用ではセキュリティに注意が必要です。
IoTのセキュリティ対策について詳しく知りたい方は、別記事「IoTのセキュリティ対策とは? 安全に活用するために」を参考にしてみましょう。
AIに計算させるIoTの最終的な形
IoTのデータは、センサー → 通信 → クラウド → 通信 →アクチュエーター、という流れになります。これは入力と演算(計算)と出力という部分に分けることができます。この演算部分を担うのがクラウドであり、実際に計算を行うのがAIになるのがIoTの最終的な形です。
AIは、if-then(〜したら〜する)のような単純でない、複雑な思考をモデル化し、モデルを更新し続けることができるもので、アメリカや中国を中心にさまざまな企業が研究を進めています。しかし、いくらAIがあっても結局は入力するデータがなければ何もできず、AIは宝の持ち腐れになってしまいます。入力するデータがあれば、AIは学習し、回答精度を上げていき、大きなベネフィットをデータの保有者に提供してくれるでしょう。
自社のビジネスをIoT化することを考えている事業者は、自分たちはAIに入力する貴重な財産を持っていると自覚をすべきです。一方で、その貴重な財産を、抱え込んでいたらそれこそ宝の持ち腐れとなってしまいます。
また、逆に自社では大したデータを持っていない、IoTしても意味があるとは思えないと考えてしまうのは惜しいことです。自分たちはいつも見ていて慣れてしまっていることでも、その光景を初めて見る人からしてみれば、それこそ人間国宝の技や手品のように見えるかもしれません。自分達の技術や業務というものを抱え込まず、一度、IoT化を前提に外に開いていくということも考えてみましょう。
IoTの普及と進化が新しいビジネスチャンスを生み出すことは間違いありません。その仕組みや活用方法について理解し、IoT技術の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、より具体的な導入事例や、導入の際のポイントについて興味のある方は、別記事「IoT導入のポイントと分野別の導入事例を紹介!」も併せてご確認ください。