5Gの次の移動通信システムである「6G」に向けた動きが、すでに世界中で始まっています。6Gとはどのような特徴を持つ無線通信技術で、5Gと比べて何が変わるのでしょうか。2030年頃とされる6G環境が整備された近未来のビジョンを覗いてみましょう。
6Gとは
6Gとは、5Gに続く第6世代移動通信システムです。今のところまだ国際標準規格が決まっているわけではありませんが、6Gでは100Gpbs超、つまり5Gと比較して10倍以上の超高速通信が実現されるといわれています。
少し振り返ると、2015年に日本国内でサービスが始まった4Gの通信速度は、最大で1Gbpsでした。これはスマートフォンで動画配信サービスを利用するといった利用方法であれば十分な速さです。通信速度以外の仕様は同時接続数10万台/平方km、遅延速度10msというものでした。
これに対し、2020年より運用開始となった5Gは最大速度20Gbpsで4Gの20倍、同時接続数は100万台/平方kmで4Gの10倍、遅延速度は1msで4Gの10分の1と一気にスペックが向上しています。5Gでは、歴代の移動通信システムで初めてミリ波が利用されています。
5GはIoT時代の通信規格といわれています。しかし今後、今以上にさまざまな分野でIoTの浸透が進むと、5Gですらすべてのデータを処理しきれなくなります。そのため早急に5G の次に向けた準備を進める必要があり、世界各国の研究団体や民間企業が6G技術の研究開発に取り組んでいます。
日本でも2030年頃の実用化を目標に据えた動きが始まっています。その背景には、5Gの技術開発や商用化では世界に遅れを取った経緯を踏まえて、巻き返しを図ろうとの意識が滲んでいます。政府も6G技術の開発支援に注力する構えで、日本企業の基地局などのインフラの世界シェアを、現在の3倍超にあたる30%に引き上げることを目標に掲げています。
1Gから5G、6Gまでの流れ
移動通信システムの歴史は、第1世代(1G)から始まっています。1Gの機能は音声による通話のみに限定され、自動車に搭載したり、肩にかけて持ち運んだりする端末として登場しました。2Gではデジタル通信のサービスが始まり、音声通話だけでなくEメールやショートメッセージの送受信、インターネットへの接続などができるようになります。
3Gからは全世界で同じ通信方式が採用されるようになり、スマートフォンが普及しました。また、従来と比べて通信が高速化したことも3Gの特徴です。その後も通信速度を高める開発が進み、4Gが登場します。4Gでは大容量のデータを送受信できるようになり、動画を視聴する機会も増えました。5Gではさらなる高速化と低遅延、同時接続数の向上が実現し、現在は6Gの実用化に向けた開発が進められています。
6Gはどのように進化するのか
日本では6Gを「ゲームチェンジ」の機会と捉える通信関係者が少なくありません。5Gと同様の高速大容量化を拡大させていくだけなら、5Gで主導的立場にある米中などとの差を埋めるのは難しいでしょう。しかし、6Gは5Gの特徴を引き継ぎながら、電力消費の抑制やセキュリティ強化などの新たな要素を付け加えたものになると予想されます。
たとえばNTTドコモは、6つの要素からなる6Gの技術コンセプトを公開しています。そこでは「超高速・大容量通信」「超低遅延」「超多接続&センシング」という5G技術の延長に加えて、新たに「超カバレッジ拡張」「超高信頼通信」「超低消費電力・低コスト化」という3つの新要素が挙げられています。更に総務省はそれに「自律性」という要素を加え7つの要素からなる6Gのコンセプトを提言しています。
「超カバレッジ拡張」とは、成層圏に浮かぶ無人飛行機(飛行物)であるHAPS(High Altitude Platform Station)を活用し通信可能エリアを飛躍的に広げる技術です。通信インフラが発達していない地域でも、地形などの制限を受けずにネットワークを広げる方法として考案されました。「超高信頼通信」とは、量子暗号と呼ばれる仕組みを活用し、5G以上の安定性とセキュリティ強度を実現することを指します。
「超低消費電力・低コスト化」は、端末の充電を不要にし、電力消費やコストを抑えるというアイデアです。シリコンフォトニクス技術を使ったエネルギー効率の高い集積回路や、無線信号を用いた新たな給電技術の開発が期待されています。「自律性」とは、AIを活用し、通信方式を意識せず自律的にネットワークを利用できる状態のことです。ネットワークの運用を自動化する仕組みは、オーケストレーション技術とも呼ばれます。
これらの新たな4つの要素は、5Gの課題を補いつつ、2030年頃の社会で必要になると想定される技術としてピックアップされました。
ただし、これらは現段階ではまだあくまでコンセプトに過ぎません。これらを実装出来る技術とその技術を世界標準として世界に広める事が出来て、初めて実現するものとして捉えておくべきものということに留意してください。
6Gと5Gの違い
6Gと5Gの違いとして、冒頭にご紹介した通信速度の他にも、信頼性の高さや遅延の少なさ、利用範囲の広さなどが挙げられます。信頼性の高い状態とは、できるだけ通信障害を起こさずにネットワークを利用できることです。6Gでは、5Gよりも高い「99.99999%」という信頼度が目標として設定されています。データが送信されてから受信されるまでの遅延については、5Gの10分の1が目標値です。タイムラグが少なく、よりスムーズな情報通信が可能となるでしょう。また、利用範囲については、どんな場所でも制限なく6Gに接続できる状態を目指して開発が進められています。地上だけでなく、上空や海上、宇宙空間などでの利用も想定されていることが5Gと6Gの違いです。
何が変わる? 6G環境の未来
2030年という近未来に6G環境が整備されると、世界はどのように変わっていくのか、現在予測されていることをみてみましょう。
日常生活
6Gの「超高速・大容量」の無線技術は、五感による現実の体感と同等またはそれ以上の新体感による新しいサービスの提供を可能にすると考えられます。端末もスマートグラスのようなウェアラブルな製品が普及するでしょう。現実レベルのVRやAR体験が複数ユーザー間でリアルタイム共有され、サイバー空間上での共同作業もできるようになるかもしれません。また、無線信号を用いた給電技術でデバイスが充電不要になれば、バッテリーの駆動時間を心配する必要もなくなります。
まったく新しいコミュニケーションツールが登場する可能性もあります。遠隔地にいる人の3Dホログラム映像を現実世界に映し出すことで、目の前で話しているかのようなリアルタイムコミュニケーションが可能になるとも考えられています。一方、店舗などは無人化が進み、3Dホログラムによる接客や、あるいはAI技術と組み合わせて人の表情などを読み取って動く、インタラクティブな遠隔ロボット接客が実現していることも考えられます。
また、オンラインゲームも仮想現実世界でのラグのほとんど発生しない対戦などが可能になりそうです。スポーツ観戦も自宅にいながら会場にいるような、またはそれを超えるような臨場感を味わえるサービスが始まるといわれています。
医療分野
6Gは医療分野にも大きな影響を与えそうです。6Gによる高精細な3D映像のリアルタイム送信と手術ロボットを組み合わせれば、熟練医による遠隔手術(オンライン手術)の普及が現実味を帯びてくるでしょう。
2030年頃には患者の医療診断、薬の処方、カルテデータ管理などのあらゆる医療行為にAIがかかわるようになっている可能性があります。IoTを医療やヘルスケア分野に特化させたものをIoMTと呼びますが、6G時代にはIoMTがさらに進化した「IIoMT(医療分野でのモノのインテリジェント・インターネット)」が主流になっているかもしれません。
IIoMTはAIとインターネットによってさまざまな医療機関、医療デバイス、医療データベースがつながったAI駆動型の医療・ヘルスケアシステムで、6Gの普及により最終的には検査から診療、治療までの一連のプロセスが自宅から一歩も外に出ることなく完了するとされています。
産業分野
6Gの超カバレッジ拡張は、5Gがカバーしていない空・海・宇宙などを含むあらゆる場所でのユースケースを想定したものです。このことにより、人とモノの活動環境が広がり、新たな産業の創出が期待できます。
自動運転システムも6Gによってさらなる進化を遂げるはずです。広範なエリアでの車両情報管理が可能になり、レベル5の完全自動運転の実用化に近づくでしょう。欧州では2030年代までに完全自動運転が標準となる社会を目指すという目標が掲げられており、自動車業界はそこに向けた競争の時代に入っていくでしょう。
6Gが10年後の世界に大きなインパクトをもたらす技術になることは間違いありません。政府主導で日本企業も開発に尽力している6Gの可能性に期待し、今後の動向に注目していきましょう。