LPWAとは? 種類や特徴、できることなど

IoTやM2M関連のサービスや製品が次々と登場するなか、新しい通信方式である「LPWA」にもスポットが当たっています。LPWAにはどのような特徴があり、なぜ注目されているのでしょうか。今、知っておきたいLPWAについての基本知識をご紹介します。

LPWAとは

LPWA(Low Power Wide Area) とは、消費電力を抑えながら長距離の通信を実現する無線通信方式の総称です。

電波の通信速度は、たとえばWi-Fiであれば通常、20~30Mbpsくらいです。それに対し、LPWAは数kbps~数100kbps程度とかなり遅く、少容量です。一方、電波の到達距離はWi-Fiが100~300m程度なのに対し、LPWAは数10kmと圧倒的に長距離です。また、LPWAは省電力性に優れており、デバイスに搭載されたボタン電池の寿命は数年~10年以上に及びます。

LPWAは主にIoTやM2Mでの活用を想定して開発されました。IoTはさまざまなモノをインターネットなどのネットワークに接続してデータを処理・分析する仕組み、M2Mはモノ(機械)とモノ(機械)がネットワークでつながって情報をやり取りする仕組みです。

LPWAの種類

LPWAには主にセルラー系と非セルラー系の2種類があります。

セルラー系LPWA

ライセンス系とも呼ばれます。大手通信事業者(キャリア)が、国から免許を受けたLTEの周波数帯域を使用して提供するLPWAです。スマートフォンなどでも利用されているLTE基地局による通信網の一部を、IoTやM2M向けに仕様変更したものと言えます。次に紹介する非セルラー系に比べてカバーするエリアが広大で高品質、高機能で移動を伴うセンシングが可能ですが、運用コストは非セルラーよりも高くなります。NB-IoT、LTE-Mなどが該当します。

・NB-IoT
180kHzという限られた周波数帯域幅を利用する通信方式です。固定された機器での設置が想定されています。

・LTE-M
LTEの一部である1.08MHzの周波数帯域幅を利用する通信方式です。移動中の通信やファームウェアアップデートなどに対応しています。

非セルラー系LPWA

アンライセンス系とも呼ばれます。無線局免許を必要としない周波数帯域(特定小電力無線)を利用して提供されるLPWAです。非セルラー系LPWAは1GHz未満のサブギガヘルツ帯の周波数を使用するものが多く、長距離通信が可能、低消費電力、電波が回り込みやすいといった特徴があります。移動には向いていません。Sigfox、LoRaWAN、Wi-Fi HaLow、Wi-SUN、ELTRES、ZETA、RPMA、Flexnetなどが該当します。

・Sigfox
デバイスのコストの低さが特徴で、IoTのモニタリングに使用されます。数多くのスマートデバイスに接続して利用することが可能です。

・LoRaWAN
ノイズに強く、長距離かつ低消費電力な通信方式です。無線を利用したセンサなどに利用されます。

・Wi-Fi HaLow
Wi-Fi接続を利用するIoTデバイスのための通信方式です。Wi-Fiによるネットワークを自由に構築できます。

・Wi-SUN
「Wireless Smart Utility Network」の略称で、障害物があっても長距離で通信できる通信方式です。

・ELTRES
省電力で利用できる通信方式のひとつです。GPSを用いた位置情報の計測などに利用されます。

・ZETA
多数のIoTデバイスとの接続が可能な通信方式です。スマートホームやスマートオフィスの実現に利用されます。

・RPMA
「Random Phase Multiple Access」の略称で、長距離通信に適した通信方式です。エネルギー分野で活用されています。

・Flexnet
信頼性の高さが特徴の通信方式です。メッシュ方式のネットワークを構築でき、スマートメータなどに利用されています。

LPWAによる通信の仕組み

LPWAを用いた通信の仕組みは、セルラー系と非セルラー系で部分的に異なります。セルラー系のLPWAでは、LPWAに対応したIoT機器から、キャリア事業者の基地局へと通信が行われることが特徴です。その後、キャリアのネットワークを通じてサーバなどとデータをやり取りします。非セルラー系のLPWAは、920MHzの帯域幅を利用し、LPWA対応のIoT機器からゲートウェイを介してサーバとの通信が行われる仕組みです。

LPWAの特徴

LPWAの特徴を改めて整理して説明します。

長距離・広域通信

通信規格や通信環境によって異なるものの、数km~数10kmに達する長距離・広範囲の伝送を実現できます。ほとんどのLPWAの通信距離は10km以上、中には100kmを超えるデータ送信が可能なLPWAもあります。

低消費電力

消費電力も通信頻度などによって変わりますが、一般的にボタン電池一つでデバイスが数年間稼働し続けられるくらいの持続性を有しています。中には10年以上電池が持つというLPWAもあります。

低コスト

とくに非セルラー系LPWAは低コストで利用できるのも特徴の一つです。デバイス1台あたりの通信料金は年額100円程度です。セルラー系LPWAの場合でも月額数10円~100円程度が中心です。

低速データ転送

一方、通信速度はWi-Fiやモバイル通信と比べて非常に低速です。速度が遅い代わりに長距離通信が可能で省電力というのがLPWAのユニークな点です。

LPWAが注目される理由

IoTやM2Mに欠かせない通信技術と聞いて多くの人がまず思い浮かべるのは5Gではないでしょうか。5Gは高速大容量、超低遅延、多数同時接続という特徴を備えています。そのため主な用途として工場、医療、自動運転などが想定されており、実用化が進んでいます。たとえば医療分野なら、データ量の多い画像や映像の伝送、さらにはそれらをリアルタイムで共有して行う診断や治療には5Gが向いています。

一方、LPWAは頻繁なメンテナンスを必要とせず何年も稼働し続けられ、大量のデバイスが存在するような用途に適しています。たとえば国内では電気使用量をデジタルで計測し、データを遠隔地に送る電力量計に非セルラー系のLPWAが利用されています。

LPWA先進国と言われ、すでにLPWAによる通信インフラが構築されているのがフランスです。非セルラー系LPWAとして名前を挙げたSigfoxはフランスのSigfox社によって仕様策定された規格で、スペインやオランダでも普及が進んでいます。これらの国ではガスメーターの検針などのエネルギー管理、物流の位置情報トラッキングなどにLPWAが活用されています。

LPWAでできること

現在、LPWA対応デバイスとして注目されているものの一つに、セルラー系LPWAを使ったトラッカーがあります。これはGPS機能が搭載され、位置情報を常時把握できるデバイスで、物流資材やトラック、車、オートバイなどに取り付けて利用できます。あるいはペットや子供、高齢者などの位置情報を追跡することも可能です。

非セルラー系LPWAでは、温度・湿度センサを搭載し、指定時間ごとに温湿度情報を送信するデバイスも利用されています。設置場所の温湿度をモニタリングできるため、美術館、工場、ビニールハウス、厨房冷蔵庫など温湿度管理が必要なところで活用可能です。さらに、温湿度だけではなく加速度、気圧、照度など何種類ものセンサを積んだデバイスも登場しています。

LPWAは他にも、河川水位監視などの自然災害対策、農業・畜産、スマートハウス、スマートシティなど多種多様な分野で活用が進むと考えられています。

LPWAの活用例

LPWAの具体的な活用例として、高齢者の見守りが挙げられます。LPWA通信に対応したIoTのセンサを単身で暮らす高齢者のドアに設置し、離れた場所の家族にメールで安否を伝えるといったサービス提供が可能です。また、介護施設ではベッドに設置したセンサの情報をもとに夜間の起床を把握し、迅速な対応を実現した事例もあります。

農業分野では、茶畑における土壌の計測が活用例のひとつです。IoTデバイスにより、地温や水分量、pHなどをリアルタイムに計測できます。一か所だけでなく、複数の箇所に設置したデバイスからLPWA通信でデータを取得することで、手作業で計測する場合と比べて効率的に土壌を管理できるようになりました。

IoTやM2Mの普及に伴い、これからLPWAは日本でももっと身近なものになっていくでしょう。自社ならではの活用方法を考え、導入を検討してみてはいかがでしょうか。