IP スプーフィング(IP 偽装)とは? 悪用されないための対策も解説

IPスプーフィング(IP偽装)は、サイバー攻撃の手法の一つです。悪意のある第三者が身元を偽り、ネットワークに侵入したりサービスを妨害したりする際に利用されます。このようなサイバー攻撃を防ぐためには、攻撃手法について理解を深めることが重要です。
この記事では、IPスプーフィングの概要から仕組みやもたらされるリスク、対策方法について解説します。

IPスプーフィング(IP偽装)とは

IPスプーフィング(IP偽装)とは、送信元のIPアドレスを偽装し、あたかも別のIPアドレスから通信が行われているように見せかける技術、または攻撃手法のことです。英語の「spoofing」には「だます」「なりすます」という意味があり、IPスプーフィングはまさにIPアドレスを詐称することで、相手を欺く行為を指します。この技術は、不正アクセスやDoS攻撃(Denial of Service attack:サービス妨害攻撃)など、さまざまな悪意のある活動に悪用される可能性があります。

そもそもIPアドレスとは何か、といった情報を知りたい方は以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
→「IPアドレスとは? 仕組みや確認方法など分かりやすく解説

IPスプーフィング(IP偽装)の仕組みと種類

IPスプーフィングの理解を深めるために、IPアドレス偽装の技術的な手法と、それを利用した攻撃の種類について解説します。

IPアドレス偽装の技術的な手法

IPアドレス偽装の技術的な手法として、攻撃者はIPパケットのヘッダーにある送信元IPアドレスを書き換えます。通常、インターネットを介して送信されるデータは小さなパケットに分割され、それぞれのパケットには送信元と宛先のIPアドレスが記録されています。攻撃者は、この送信元IPアドレスを偽装することで、受信側のシステムに信頼できる送信元からのパケットであると誤認させるのです。この偽装は特別なソフトウェアツールを使用することで比較的簡単に行うことができ、痕跡が残りにくいという特徴があります。

IPスプーフィングを利用した攻撃の種類

IPスプーフィング自体は、単にIPアドレスを偽装するだけ、ともいえます。しかし、この攻撃の恐ろしい点は、次に挙げるような攻撃と組み合わせて使用されることで、攻撃の効果が増すことです。

  • DoS/DDoS攻撃
  • 中間者攻撃
  • 不正アクセス
  • ボットネットのデバイス隠蔽

DoS/DDoS攻撃は、大量の偽装されたIPアドレスを持つパケットを標的のサーバーに送信し、サーバーに過剰な負荷をかけてサービスを停止させる攻撃です。IPスプーフィングによってパケットの書き換えを実現することで、この攻撃が成立します。
同様にパケットを書き換え、通信経路上でIPアドレスを偽装して通信内容を傍受・改ざんする「中間者攻撃」も危惧すべきリスクの一つです。信頼されたIPアドレスを偽装してネットワークに不正侵入する「不正アクセス」もリスクとして考えられます。
さらに、マルウェアに感染したコンピュータを集合体であるボットネットに含まれるデバイスを隠蔽するためにも、IPスプーフィングによるIPアドレスの偽装が用いられます。

IPスプーフィング(IP偽装)による被害とリスク

IPスプーフィングによって攻撃者はネットワークに侵入し、個人情報や企業の機密情報を盗み出す可能性があります。また、Webサイトやデータベースを改ざんし、不正なコンテンツを掲載したり、マルウェアを配布したりする可能性も考えられるでしょう。さらに、DoS/DDoS攻撃によってサーバーをダウンさせ、Webサイトやサービスの提供を長期間にわたって妨害する可能性もあります。これらの攻撃は企業の信頼を失墜させ、顧客からの信用を損なうだけでなく、事業運営にも大きな支障をきたすことになります。

IPスプーフィング(IP偽装)の対策

IPスプーフィングの脅威から身を守るためには、ネットワーク管理者と一般ユーザーのそれぞれが適切な対策を講じる必要があります。

ネットワーク管理者が行うべき対策

ネットワーク管理者が行うべき主要な対策は次のとおりです。

  • ファイアウォールの適切な設定
  • パケットフィルタリング
  • 侵入検知システム(IDS)/侵入防止システム(IPS)の導入
  • ネットワークの監視と分析
  • 複数の認証方式の導入
  • 通信の暗号化

まずファイアウォールを適切に設定し、不正なIPアドレスからのアクセスを遮断することが重要です。特に、外部からのアクセスであるにもかかわらず、内部ネットワークのIPアドレスを装った通信を拒否する設定が有効です。パケットフィルタリングでは、パケットのヘッダーを検査して送信元IPアドレスが正しいかどうかを確認し、不審なパケットを拒否するようにします。
また、DoS/DDoS攻撃・不正アクセスの対策として、IDS/IPSを導入してネットワーク上の不審なアクティビティを監視しましょう。IPスプーフィング攻撃を検知した場合に警告を発したり、自動的に防御したりすることも効果的です。ネットワークトラフィックを常に監視し、異常なパターンや不審な通信を早期に発見できるようにします。
不正アクセスや通信内容の盗聴・改ざんに対しては、IPアドレスに依存した認証だけでなく、複数の認証手段を組み合わせた多要素認証を用いることが有効です。さらに、SSHやHTTPSなどの暗号化技術を使い、通信内容を暗号化することで盗聴や改ざんを防げます。

一般ユーザーが取るべきセキュリティ対策

IPスプーフィングに対して一般ユーザーが取れる対策は多くありませんが、攻撃者に対して隙を見せない・機会を与えない、ということが重要です。不正アクセスを防ぐために多要素認証を設定する、通信内容を盗聴・改ざんされないようにHTTPSで暗号化されたWebサイトのみを利用する、などが有効です。
加えて、セキュリティソフトウェアを導入し、OSやアプリケーションとあわせて常に最新の状態を保ち、セキュリティ上の脆弱性をなくすことも重要になります。その他にも、不審なメールやリンクを不用意に開いたり、アクセスしたりしないようにすることも、一般ユーザーが取るべき重要なセキュリティ対策の一つです。

IPスプーフィング(IP偽装)の被害に遭わないために

IPスプーフィングは、他のサイバー攻撃の基礎ともいえる攻撃手法です。対策する際は、単にIPスプーフィングを防ぐだけでは足りません。IPスプーフィングによってもたらされる他のサイバー攻撃のリスクも考慮し、対策することが重要になります。
IPスプーフィングの脅威は、決して他人事ではありません。一人ひとりがセキュリティ対策を徹底し、安全なネットワーク環境を構築することが、被害を未然に防ぐための重要な一歩となります。