製造業の生産性を向上させる4つのポイント

製造業における生産性とはそもそもどのようなことを指し、また何が生産性の向上を妨げているのでしょうか。生産性向上における課題はここ数十年ほとんど変わっていませんが、それを解決するための方法は時代が新しくなるにつれ少しずつ変化してきています。いま、製造業の生産性を向上させるために必要な4つのポイントについて解説します。

製造業における生産性の考え方

労働生産性を求める基本計算式は次のとおりです。

労働生産性=生産量÷労働人数

製造業に当てはめると、生産された製品が1万個で労働者数が400人だとすれば、労働者1人あたりの労働生産性は25となります。1人あたりどれくらいの数の製品を製造したかがこの式でわかります。

なお、上の式は「物的労働生産性」を求めるものです。労働生産性にはほかに、「付加価値労働生産性」もあります。こちらは以下の計算式で求められます。

付加価値生産性=付加価値額÷労働者数

付加価値額の計算方法はさまざまですが、簡易的な計算式は以下です。

付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費

付加価値生産性は、1人あたりどれくらいの粗利を出したかを表すものと考えればわかりやすいでしょう。

いずれにしろ、製造業の場合、生産性の向上とは「投入する人的リソースに対する生産量の比率を上げること」となります。「少ない人的リソースで最大の製造量を確保すること」とも言えるでしょう。

たとえば生産に携わる従業員の製造スキルが上がれば生産性は上がります。しかし注意したいのは、従業員一人ひとりの業務負担が増してしまうと、結果的に生産性は落ちていくということです。生産性を上げようとするなら従業員の負担を増やすのではなく、むしろ現場の無駄を削減するなどして従業員の負担を減らし、そのスキルを十分に発揮できる環境を整える取り組みが重要です。

製造業の生産性が下がってしまう主な原因

製造業の生産性が下がる原因としてまず考えられるのが人材不足です。そもそも各製造工程に必要な人員数が確保できていない場合はもちろん、ベテランと新人の数のバランスが悪いといった場合も生産性は低下することがあります。これは作業の標準化が実現できていないことと関連します。ベテランのスキルが高いのは当然としても、新人でも平均的な水準の作業がこなせるようになっていれば、生産性の低下は抑制できます。

また、製造工程に作業ミスが起こりやすい部分、待ち時間が発生しやすい部分があると、その部分がボトルネックになって生産性が下がります。品質が安定せず、不良が発生しやすい場合も同様です。さらに在庫管理が適正化されていないと製造リードタイムが長くなり、生産性が下降します。

ほかには指示の仕方も生産性に影響します。漠然と「生産性を上げるように」と指示しても従業員の士気は高まらないでしょう。具体的な数字を示して、「〇〇の工程にかかる時間が××になるよう努力してほしい。生産量の目標数は……」と指示すれば、生産性向上につながるはずです。

製造業の生産性を向上させることで期待できる効果・メリット

生産性の向上が実現し、1人あたりの生産量が増えればコストが削減できます。これが生産性向上によって得られる最も端的な効果・メリットです。

また、生産性を上げるために作業の標準化を進め、従業員のスキルを一定以上に引き上げ、設備などを最適化することは、製品の品質向上にも役立ちます。逆に、最も避けなければならないのは、生産性を無理に引き上げることで品質が落ちてしまうことです。生産性向上を目指すとき、同時に品質管理に注力することは、製造業者としてのブランドや競争力を維持するための非常に大きなポイントとなります。

生産性の向上と同時に品質が確保できるようになれば、顧客満足度や従業員満足度の向上も期待できます。競合他社との差別化も達成できるでしょう。それが売上という結果にも結びつくはずです。

製造業の生産性を向上させるポイント

最後に、製造業の生産性向上に効果が期待できる方法を見ていきましょう。4つのポイントに沿って説明します。

生産量の数値化と目標設定

まず現状の生産量を数値として把握し、従業員全体で共有します。次に生産計画を見直し、目標とする生産量を年単位、月単位、週単位、日単位で決めます。定量的な数値目標を決めてそれをアナウンスすることで従業員のモチベーションも維持できるでしょう。

生産工程の改善

生産ラインのどこでどんなロスが生まれ、ボトルネック化しているかを把握して改善します。ボトルネックが起きている工程や課題を可視化するには、従業員へのヒアリングを実施するほか、ネットワークカメラなどのカメラを設置してモニタリングする方法も有効です。映像情報をリアルタイムでも、クラウドなどに保存してあとからでも確認して分析することで問題箇所を発見できます。カメラ設置はヒヤリハットなど事故につながりかねないミスなどの監視にも役立ちます。

設備の改善

設備や作業場のレイアウトを最適化も作業効率、生産性の向上に役立ちます。こちらもヒアリングによる調査やカメラによるモニタリングで改善点を探すことができるでしょう。また、大きな改善が見込めるのであれば新規の設備投資も検討することになります。

IoTの導入

IoT技術の発展に伴い、工場向けのIoTの導入によって生産性の向上を実現している事例が増えています。生産工程ごとの生産・稼働状況の可視化、在庫管理システムとの連携、品質管理、設備の異常感知などに、IoTは効果を発揮します。IoTとAIの組み合わせによるソリューションの適切な活用により、少人化につなげて人材不足を解消できることにも期待できます。

勘の良い方はもうお気づきかと思いますが、これらの4つのポイントのゴールは「単能工から多能工への移行」というところにあります。複数の作業・業務を兼任することができるマルチスキルを持った多能工を増やすことにより業務の標準化が進みます。それと同時に業務の繁忙期と閑散期での人員や業務量の平準化も実現することができるのです。

この多能工化をサポートするのがIoTです。業務の棚卸し、スキル調査、稼働率調査を行うことで現状を把握することができます。更にIoTを使った作業の定量化や作業補助を行うことで多能工化し、適切かつ効率的な人員配置につなげていくのです。

製造業における生産性向上は永遠の課題とも言えます。多くの企業では当然、それぞれに生産性改善策を講じ、一定の成果を上げているはずです。しかし問題はいったん達成した生産性を品質と両立しながら維持し続けること、次第に頭打ちになってしまうのを回避することです。IoTなどの新しい技術を積極的に取り入れながら、新たな生産性の向上と維持に取り組んでみてはいかがでしょうか。