工場の省人化を実現する方法とは

省人化という言葉は製造業や工場においては少し特別な意味を持っています。また、IoTやAI、ロボットなどの技術が進化してくるにつれ、これまでよりもさらに効率的で高度な省人化が実現しようとしています。工場の省人化を実現するにはどのような方法があるのか、省人化の概要とともに解説します。

省人化とは

省人化とは、設備改善や作業効率化を進めることで無駄な工程を削減し、人員を減少させることです。

省人化はもともとトヨタ自動車の工場における生産の運用方式であるトヨタ生産方式から生まれた用語です。そこでは省人化(しょうじんか)と少人化(しょうにんか)という用語が使われています。また、一般的な用語として省力化という言葉も存在します。いずれもよく似た用語ですが、それぞれ意味が異なります。

省人化と省力化や少人化は何が違うのか?

上でも述べた省人化と省力化、少人化とは、それぞれ何が違うのでしょうか。

トヨタ生産方式における省人化は、作業を効率化することで、「作業者を1人、生産ラインから省く」ところまで改善を進めるという意味を持っています。工場での省人化の目的は、必要生産数を一定に保つことを前提とした上で、人員、つまり必要のない仕事を省くことにあります。省人化を実現させるにはいくつか方法がありますが、機械による自動化をうまく活用することがその一つとされています。

そして一般的にもよく使う言葉である省力化は、人が行っている作業内容を見直し、無駄を省いて作業効率を上げることです。同じ成果を少ない労力で得るための取り組み、とも言えます。

省力化は、成功すればそれぞれの人員が負担する作業量を減らすことができますが、それだけでは会社の収益には結びつかない可能性があります。省力化で0.9人分の作業を減らしたとしても、0.1人分の作業が残れば、その人員を省くことはできないからです。

しかし、省力化をもっと推し進めて、1人分の作業をなくすところまで到達すれば、10人で作業をしていたラインを9人で担当できるようになります。これが省人化です。省人化によって人を減らし、ほかの仕事に回すことができるようになれば、会社の収益向上に結びつきます。

それに対し少人化は、顧客の要求数量の変動に応じて、人員の数を増減させることで、生産性を維持できるようにすることを指します。受注が多いときには作業人員を増やし、少ないときには作業人員を減らして、一定の生産性(能率)を保つ取り組みが少人化です。

今日は10人、明日は9人、明後日は11人というように、受注の増減に応じて最少の人数で柔軟に対応できる、最も効率的なラインが作れるようになります。

工場ではこれまで、オートメーションと呼ばれる、機械や設備による「自動化」が推進されてきました。自動化は省力化や省人化、少人化の実現にも役立ちます。

ただし、人の動きを機械に模倣させて繰り返すだけの自動化は、異常が生じて不良品が出ても、そのまま同じ不良品を作り続けていくという弱点があります。

そこでトヨタ生産方式では、ニンベンのついた「自働化」という考えが提示されています。自働化とは、何らかのトラブルがあったときに自動的に止まる機械を用いることで、不良が出ても最小限で抑える仕組みを作るという考え方です。

省人化を実現する方法

省人化を実現するにはさまざまな方法が考えられます。

省人化の基本は必要のない仕事を見つけ出してやめることです。そのためには各工程における作業の見直しを行い、作業のムダや作業量の偏り、準備の時間や作業に伴う移動歩数などをチェックして、改善していくことが効果的です。

さらに、作業の平準化や標準化を図ることも必要です。一部の特殊なスキルを持つ人に依存する属人化が発生していると、その人がいなければ作業進まなくなってしまいます。この標準化をすることで、一人で多種の仕事ができる多能工化を進めることが可能になります。

自動化・自働化による設備改善もまた、大きな効果をもたらします。現在では、IoTやAI、ロボットなどの技術を用いることによって、以前よりも高度で複雑な自動化・自働化が可能になっています。例えば、あらかじめ基準を定義した上で、カメラやセンサーを備えたIoTデバイスによって工場の製造機械をモニタリングし、AIが基準からの逸脱がないか分析を行って逸脱を検知するとただちに機械を止める、といった仕組みがすでに実用化されています。

しかも、IoT、AI、ロボットなどを使ったスマート化は工場などの生産現場だけではなく、物流業、流通業、小売業、さらには農業や漁業などさまざまな業種でも推し進められ、省人化への流れを作っています。

省人化を進めるメリット

トヨタ生産方式による省人化は多くの製造業で取り入れられています。また、製造業以外の業種にもその影響は及んでいます。一例を挙げれば、小売店でもセルフレジや無人レジの導入などによる省人化が進められています。

省人化は少子高齢化などによって人手不足が深刻化していく中、解決策の一つとして有効です。人員が不足すると1人ひとりにかかる負荷が高くなり、労働密度が向上しないまま労働強化につながり、労働時間も増えるおそれがあります。働き方改革を進めるにも、省人化を前提とした職場環境を整えていく必要があるでしょう。

省人化によって同じ作業に必要とされる人員数を減らせれば、収益向上にもつなげられます。ファクトリーオートメーション(FA)やスマート化のためのシステムを導入するのにもコストはかかるので費用対効果を考慮する必要はありますが、長い目で見ればコスト削減に結びつけられるケースが多いでしょう。また、製造業における自動化・自働化による省人化は、単に生産性向上やコスト削減を実現するだけではなく、現在では品質向上や、少人化のような製造体制の柔軟性向上のために運用されるケースが増えています。特に少人化による柔軟性を持った生産体制を整備することは不確実性の高まった時代ではとても重要になって来ているといえるでしょう。

これまでも常に製造業の課題であった工場の省人化は、技術の発展によって今また次のステージに進もうとしています。省人化を考えるなら、IoTやAIを活用した新しい形の省人化推進も検討してみるべきでしょう。