IoTの導入に失敗する原因と対策

作業効率化、コスト削減、ビジネス機会の創出など、IoTはさまざまなメリットを企業にもたらすといわれています。実際に製造業を中心に多くの企業が導入を推し進め、その波は大企業だけでなく中小規模の企業にまで及びつつあります。その一方で、IoTの導入は難しい、導入に失敗する企業が増えているという声も聞こえてきます。IoT導入はなぜ失敗するのか、その原因と対策について解説します。

IoTの導入に失敗する原因

IoTの導入に失敗するのはなぜなのか、導入に至らずPoC(Proof of Concept)で終わってしまうのか、その原因は主に次の3つに分けられます。それぞれ具体的に説明します。

予算を確保できない

IoT導入にはまず、センサを搭載したIoTデバイスの購入コストがかかります。また通信回線、ネットワーク、サーバー、クラウド、ルーター、AIを含むデータを分析・解析するためのアプリケーションなどを用意するための費用も必要です。加えてシステム全体の設計・構築費用、システムの運用・保守費用、セキュリティ対策費用などもかかります。

課題を解決するために最も確実なのは要件に合致したデバイスの選定からシステムの構築、保守までを専門のベンダーに丸投げすることですが、そうすると数千~数億円の予算を提示されることも少なくありません。要件によっては新たなIoTデバイスを設計する必要があったり、ネットワークのキャパシティを大幅に拡張しなければならなかったりと、予算がどんどん膨らんでいくことにもなりかねません。

そのため中小企業では十分な予算を確保できない、投資効果が算定できないといった理由から、導入に至らないケースが多々あります。

現場と経営層の意識の違い

予算を捻出し、経営層の判断でIoTを導入できた場合でも、現場との意識のギャップが生じることがあります。IoT導入によって新しいオペレーションが求められるようになっても、新しいオペレーションを理解し、受け入れ、正しく使いこなせる人材が現場にいなければIoTは宝の持ち腐れになってしまいます。

例えば工場の製造現場なら、既存の方法でとくに問題なく作業をこなしていたと考えている従業員のほうが多い可能性があります。そうした状況で、しっかりとした意思疎通もなく、トップダウン式でIoT化すれば作業効率や生産性が上がるといわれても、現場はピンと来ないままでしょう。むしろ、IoT化によって省人化が進み、人員が減らされるのではないという不安を与えてしまう可能性もあります。

まず現場の理解がなければ、IoTの導入はできたとしても効率的な運用は進みません。

IoT化が目的になっていた

現場の従業員への説明が不十分なのは、そもそもIoT化の目的が明確化されていないからかもしれません。これは他社の動きや時流に乗り遅れまいとして「IoT化そのもの」が目的になってしまっている場合にありがちなパターン、手段の目的化です。

さまざまな業界・業種でIoT化がトレンドになっているのは事実です。しかし、IoTの導入によって自社のどんな課題を解決し、あるいはニーズを満たし、どのような成果を得たいのかがはっきりしていなければ、IoT化を効率化や業績向上に結びつけることは困難です。

IoT導入のポイント

IoT化は目的ではなく、手段です。とくに中小企業の場合、最初からIoT化によって抜本的な改革を図ろうとするのはリスクが大きく、予算もかかり、目的を定めるのも難しくなることが多いでしょう。

工場であれば、製造工程のすべてを見直して完全なスマート工場を作り上げるにはステップ・バイ・ステップの緻密な計画が必要です。そのような大規模プロジェクトを成功に導くのは簡単ではありません。しかし、「機械が何らかのトラブルで停止した場合、目視では気づくのが遅れる」という課題があり、「機械の稼働状況をIoTで見える化する」といった明確な目的が定まれば、それをIoT導入で解決できる可能性は高くなります。分かりやすい目的が設定されていれば、導入後の成否の判断も容易です。

IoT導入で失敗しないための対策

ここまで繰り返し述べてきたように、IoT導入で失敗しないためにまず必要なのは目的の明確化です。現場の従業員にも伝えやすく分かりやすい目的であるほど計画も立てやすく、成功の確率は上がるでしょう。

そのためにはスモールスタートを意識するのもポイントです。規模の小さいプロジェクトであれば、本格導入の前に実証実験を行うことができ、導入失敗によるリスクも抑えられます。また、小規模プロジェクトならオペレーターも少人数ですむので人材を確保しやすく、教育プログラムも用意しやすいでしょう。

予算については、デバイスや通信料金は低価格化しており、既存システムを活用するなどの方法でも抑えることが可能です。さらにいえば、IoTデバイスの活用方法によってもコストは変わります。前出の工場内の「機械の稼働状況をIoTで見える化する」という目的を達成しようとする場合、すべての機械を改造して稼働状況をモニタリングするシステムを作るのはかなり大変です。しかし、すでに工場に導入されている機械の稼働状況を従業員が目視するためのシグナルタワー(積層式表示灯)の色をセンサで読み取るIoTデバイスを取り付ければ簡単に目的を達せられます。現在では、こうしたアイデアに富んだIoTソリューションが多く登場しています。

IoTの導入の仕方はそれぞれの企業が抱える課題の内容や事業戦略などによって異なるはずです。しかし、目的が明確でなければ失敗しやすいというのはどんな企業にも共通するポイントでしょう。また、大規模なプロジェクトでなくても、今ではIoTを導入して身近なところから課題を解決していくことが可能です。IoT導入で失敗しないためにこの記事を参考にしてください。