ネットワークスライシング技術とは? 5G時代を支える技術

5G時代に登場する多くのサービスは、「ネットワークスライシング」と呼ばれる技術を利用して提供されるようになると考えられています。現在さまざまな分野の企業がこの技術の活用方法についてアイデアを練り、自社サービスと組み合わせる方法を検討しています。ネットワークスライシングとはどのような技術なのか、今後どのような可能性が広がっているのか、わかりやすく解説します。

ネットワークスライシングとは

ネットワークスライシングとは、単一のネットワークインフラを仮想的に分割(スライシング)し、多様なニーズや用途に応じたサービスを提供できるよう複数の論理ネットワークとして提供・運用する技術です。

ネットワークスライシングでは、汎用サーバーやトランスポート機器などのハードウェアを共有しながら、ソフトウェアで論理ネットワーク(スライス)を構築し、それぞれのスライスにデータ処理機能やストレージなどのリソースを配置してエンドツーエンドで提供します。

この技術によって分割されたスライスは互いに独立していて、あるスライスで生じた負荷や不具合がほかのスライスに影響することはありません。ネットワーク障害が起きたときでもその影響を特定のスライス内に限定できます。また、用途やセキュリティポリシーに合わせて、それぞれのスライスをカスタマイズすることが可能です。

5G時代を支えるネットワークスライシング技術

ネットワークスライシングは5G(第5世代移動通信システム)の長所をさまざまな形に組み合わせ、引き出して利用するための技術と言えます。

5Gは高速大容量、多数同時接続、高信頼・低遅延通信という特徴を備えていますが、用途によっては必ずしもそのすべてを必要とするわけではありません。

具体的に、5Gを活用する際は、以下のような要件とそれに対応する用途があります。

・高速大容量(eMBB)
高精細映像配信、ゲーム、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)、自由視点映像、スタジアムでの超高密度トラフィック、高精細映像による監視など。

・多数同時接続(mMTC)
物流管理、IoT、スマートシティ/スマートホーム、スマートメータ、センサ、ウェアラブル端末など。

・高信頼、低遅延(URLLC)
スマート工場、ロボット・ドローンの遠隔制御、スマート農業、遠隔手術、交通管理、自動運転、テレイグジスタンス(遠隔臨場感)など。

ネットワークスライシングは、例えば上記の高精細映像配信、物流管理といった多様な用途ごとに異なるスライスを割り当て、それぞれに適した要求条件を満たすよう仕様を変えて運用することができます。そのことにより5Gのネットワークインフラを効率的に活用できるようになります。

また、ネットワークスライシングは5Gにおけるセキュリティ強化にも役立ちます。IoTなど強固なセキュリティ対策が必要な用途に対しては、そのスライスに専用のセキュリティ対策機能を付与して運用し、リスクを減らすことができます。また万一、マルウェアに感染したとしても、特定のスライス内に動作を押し止めることで被害を最小限に食い止められます。

ネットワークスライシングが広げる可能性

ネットワークスライシングにおいては、インフラ事業者がさまざまなサービス用にカスタマイズしたネットワークを提供します。一方、サードパーティはネットワークスライシングを利用することで、最適化されたネットワークインフラを自社のサービスの一部としてエンドユーザーに提供することができます。

そのため、現在すでに、要求条件に合わせて動的にネットワークの仕様を変更できるオンデマンド構築技術などが開発されています。こうした技術が洗練されていけば、新しいアイデアでネットワークスライシングを活用する企業が多数現れてくるでしょう。

例えば現在、映像配信サービスの中にはプレミアム会員向けに4Kなどの高精細映像を提供しているケースがありますが、ネットワークスライシングを利用すれば5Gでも同様のことが行えます。あるいは特定アプリを使っている会員だけに、優先的に特別なサービスを提供するといった手法も考えられます。対戦型ゲーム、VR/ARなどのエンタテインメントコンテンツではこのような活用の仕方が進むかもしれません。

一方で、IoTやM2Mなどで緊急性が高くないセンサーデータを収集する場合は、オフピークの時間帯にのみ通信する格安のスライスを利用できるようになる可能性があります。もっと性能を落とした、非常に低価格なスライスも登場するかもしれません。エリアを限定したスライスを活用したいというニーズもあるでしょう。

高速大容量、多数同時接続、高信頼・低遅延通信という特徴をすべてフルに活用したベストエフォート型の活用方法も存在するでしょう。しかし一方で、ニッチなニーズに応える特化型のスライスも利用するこができ、選択肢が増えるのがネットワークスライシングのユニークな点です。

5Gが今以上に普及してくれば、ネットワークスライシング技術は急速に身近なものになってくるでしょう。その性能を上手に活用し、新しいサービス提供やインフラ構築の実現に結び付けられるようなビジネスアイデアが今、求められています。