Wi-Fi6とは? その特徴とWi-Fi5との違い、メリットなど

2019年9月からスタートしたWi-Fi規格である「Wi-Fi 6」が、日本でも順調に普及しています。しかし、Wi-Fi 6がどのような規格か把握していない方もいるでしょう。その特徴や、一つ前の規格であるWi-Fi 5との違い、Wi-Fi 6を使うメリットなどについて解説していきます。

そもそもWi-Fiとは

無線LANの最初の規格である「IEEE 802.11」が策定されたのは1997年のことです。この規格を作ったのはIEEE(米国電気電子学会)という標準化団体です。

しかし、当初は無線LAN機器のメーカーが異なると相互に接続できないなどの問題があり、ユーザーは不便を強いられていました。そこでWi-Fi Allianceという団体が2000年3月から相互接続の認定をする業務をスタートし、認定した製品に「Wi-Fi」というロゴの使用許可を与えることにしました。

つまり、Wi-Fiとは本来、技術の名前でも規格の名前でもなく、「IEEE 802.11」規格を使用した機器間の相互接続が認められたことを示すブランド名です。

その後、スマートフォンが普及するにつれWi-Fiという言葉も広く知られるようになり、2010年頃からは異なるメーカーの製品であっても相互接続性が問題になることはほとんどなくなりました。そのような経緯もあって今ではほぼ「Wi-Fi=無線LAN」というイメージが定着しています。

そしてWi-Fi Allianceは2019年9月19日より、認証プログラム名称に4、5、6の番号表記を導入することにしました。どういうことかというと、「IEEE 802.11」シリーズの最新規格である「IEEE 802.11ax」に、もっとシンプルな新呼称「Wi-Fi 6」を与えることにしたのです。それまでは「IEEE 802.11ac」「IEEE 802.11n」のように「11+アルファベット」で表記されてきましたが、「ax」「ac」「n」でどれが一番新しい規格なのかわかりにくいために、呼称を変更することにしたのです。 一つ前の規格である「IEEE 802.11ac」には「Wi-Fi 5」を、そのさらに一つ前の規格「IEEE 802.11n」には「Wi-Fi 4」という新呼称が与えられました。

すなわち、「Wi-Fi 4」「Wi-Fi 5」「Wi-Fi 6」から、新たに世代名が分かる呼称が使われるようになったということです。Wi-Fi 6は6世代目の「IEEE 802.11」シリーズの規格という意味です。「IEEE 802.11ac」「IEEE 802.11n」「IEEE 802.11ax」と呼ぶよりわかりやすくシンプルですね。

Wi-Fi 6の特徴

2019年にスタートしたWi-Fi 6ですが、その普及速度は過去に類を見ないレベルです。Wi-Fi Alliance の発表によれば、Wi-Fi 6の市場普及率はこれまでのどのWi-Fi世代よりも短期間で50%に達したといいます。2022年9月には、Wi-Fi 6の拡張版であるWi-Fi 6Eも日本国内で解禁されました。次世代規格のWi-Fi 7については、2023年時点で総務省において実現に向けた検討が進められている段階です。

では、Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)とはどのような規格なのでしょうか。以下、特徴を列挙してみます。

  • 最大通信速度は9.6Gbps(理論値)
  • 同時接続時も速度が低下しにくい
  • TWT(Target Wake Time)機能によりデバイスのバッテリー寿命が長くなる
  • 2.4GHz帯と5GHz帯の2つの周波数帯に対応
  • 下位互換があるため以前の規格にも対応している

これらの特徴によって得られるメリットについては後述します。

Wi-Fi 6とWi-Fi 5の違い

Wi-Fi 6の一つ前の規格であるWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)の通信速度は最大6.93Gbpsでした。これに対し、Wi-Fi 6の速度は最大9.6Gpbsなので、およそ1.4倍に高速化されています。

しかも、Wi-Fi 6の高速性能は理論値だけが向上しているわけではありません。実際の使用シーンでどれくらいの速度が期待できるのかを表す伝送速度の実測値を実効スループットと呼びますが、Wi-Fi 6はそこでも高い数値を示します。Wi-Fi 6では高密度環境における平均スループットが、Wi-Fi 5の4倍になることを目標に開発されています。これが実現されているなら、実際の使用シーンでも最大1~2Gbpsという高速通信が体感できるでしょう。

加えて、Wi-Fi 5が5GHz帯にのみ対応していたのと異なり、Wi-Fi 6では2.4GHz帯と5GHz帯の2バンドに対応しています。状況に合わせて2.4GHz帯と5GHz帯を組み合わせて通信する機能も備えているので、安定した通信が可能です。

また、Wi-Fi 6では、「OFDMA」という技術が採用されています。これは簡単にいえば電波の「相乗り」を可能にし、順番待ちが発生しない仕組みの技術です。また、複数台利用時の品質を向上させる「MU-MIMO」という技術が上下通信双方向に対応し、最大接続数がWi-Fi 5の4台から8台に倍増しました。さらに、混み合った環境でも効率的に通信が行える「Spatial Reuse」という技術も採用されています。

これらにより、Wi-Fi 6では、一つのルーターに多数の端末が接続され、無線電波が多数飛び交うような状況でも高速通信を安定維持できるようになっています。

Wi-Fi 6のメリット

改めてWi-Fi 6のメリットを述べると、次の4つが挙げられます。

速い

Wi-Fi 6は通信速度が高速です。Wi-Fi 5の最大通信速度が6.9Gbpsだったのに対し、Wi-Fi 6では9.6Gbpsと、最大でおよそ1.4倍の高速通信が可能になります。これは、8Kや4Kといった高解像度の映像配信を利用するときも、ストレスなく楽しめる速さです。テレビ会議やウェビナーなど、通信速度が求められるようになったビジネスシーンにおいても、ストレスフリーな接続環境を実現できるでしょう。

さらにWi-Fi 6は、使える周波数が5GHz帯のみのWi-Fi 5と異なり、2.4GHz帯と5GHz帯の両方を利用できます。そのため回線への同時接続数が多く帯域幅を圧迫している場合や、電波の調子が悪い場合などに周波数帯を切り替えることで、快適な通信を維持できる可能性があります。

なおWi-Fi 6の拡張版であるWi-Fi 6Eでは、2つの周波数帯に加えて6GHz帯の利用も可能です。電波干渉などもなくなり、一層使いやすくなっています。

省エネ

Wi-Fi 6では、Target Wake Time(TWT)と呼ばれる新しい技術により、デバイスが休眠状態から適切なタイミングで起動し、通信を行うことができます。これにより、デバイスのバッテリー寿命が向上し、省エネ効果が得られます。TWT対応スマホを使用すれば、Wi-Fi 6使用時にバッテリーの持ちが良くなります。省エネ効果は、常時稼働し続ける必要のあるIoT機器などを扱う上で特に重要で、バッテリー消費を抑えることでメンテナンスコストを削減する効果が期待できます。

安定性が高い

Wi-Fi 6はOFDMA技術を採用しています。この技術により、ネットワーク上で多くのデバイスが同時に通信できるようになったことで、従来のWi-Fiで発生していた回線の混雑や順番待ちによる遅延が発生しません。同時に接続するデバイスの台数が多い自宅やオフィスでも、あるいは空港や駅などの公共スペースやスポーツのスタジアムなどの高密度環境でも、Wi-Fi 6ならつながりやすく、安定性の高い接続環境を実現できるでしょう。また、ビームフォーミングを利用したMU-MIMOに対応しており、Wi-Fi 5ではダウンリンクのみ最大4台までだったものが、Wi-Fi 6ではダウンリンク・アップリンクともに最大8台へと拡大しています。

セキュリティ性に優れる

Wi-Fi 6では、新たなセキュリティ規格である「WPA3」を必須要件としています。WPA3はWPA、WPA2の後継となる規格で、従来のWPA2に比べて一層強固なセキュリティを実現しています。

WPA2には、KRACKと呼ばれる深刻な脆弱性がありましたが、WPA3ではSAEハンドシェイクと呼ばれる同時認証技術を採用することで、この脆弱性を解消しています。その他にも、辞書攻撃や総当たり攻撃への対策として、パスワードの入力ミスが一定回数続くとアクセスできなくなる不正ログイン対策が施されています。

Wi-Fi 6のデメリット

Wi-Fi 6を利用するためには、対応するデバイスが必要です。全てのデバイスがWi-Fi 6に対応していないと最大の効果を得ることは難しいですが、Wi-Fi 6に対応した機器や機器のアップグレードには相応のコストがかかります。

ただ、Wi-Fi 6は下位互換性を持っているため、従来のWi-Fi機器との互換性を考慮する必要は基本的にありません。ネットワークを構築するシステムの一部をWi-Fi 6対応の機器に置き換えることも可能です。しかしその場合、当然Wi-Fi 6非対応の機器はWi-Fi 6のメリットを享受することはできません。

また、Wi-Fi 6が提供できる高速データ転送の恩恵を十分に得るには、適切な通信帯域が必要です。ネットワークインフラが十分でない場合、効果が制限される可能性があります。機器だけでなく、ネットワーク自体の通信速度や帯域幅が十分であるかも確認しておくとよいでしょう。

5G環境ではWi-Fi 6が重要に!

インドアを中心としたネットワークにおける高速通信を実現させるのがWi-Fi 6であるのに対し、アウトドアを中心としたネットワークの中心は5G(第5世代移動通信システム)です。

2020年から国内でのサービスが開始された5Gは、超高速、超多数同時接続、超低遅延というWi-Fi 6とも似た特徴を持っています。5G対応の格安SIMも普及しています。

Wi-Fi 6と5Gは、IoTの普及やAI技術の活用を支える通信インフラとしても活躍しています。スマートスピーカー、IoT家電、スマートロックなど今後さらに増えていくと考えられる家庭内のIoTデバイスを使うには、Wi-Fi 6やWi-Fi 6Eが適しているでしょう。一方、スマート工場などの機械制御、車の自動走行や病院の遠隔治療では5Gが便利です。Wi-Fi 6と5Gは適材適所で活用され共存していくと予測されます。

Wi-Fi 6ルーターやWi-Fi 6対応スマホなど、Wi-Fi 6の市場普及率は2022年時点で50%を超えており、これからWi-Fi 6やWi-Fi 6E、Wi-Fi 7といった新たな規格が主流となることは確実です。その動向を注視し、プライベートでもビジネスでも賢く活用していきましょう。