介護現場の課題を解決するIoT活用

日本社会の超高齢化が加速する一方で、慢性的な人材不足に悩む介護現場。過酷な労働環境のなかで、必要な人手と介護の質を維持していくための取り組みとして注目されているのが、IoTの活用です。今回は、介護現場が抱えるさまざまな悩みを解決するIoTについて、その可能性や活用方法について詳しく解説していきます。

IoTとは?

日本語で「モノのインターネット」と訳される「IoT(Internet of Things)」。ひと言で説明するなら、IoTというのは、自動車や電化製品などの「モノ」をインターネットにつなぐ技術のことです。よく似たキーワードとして「IT(情報技術)」や「ICT(情報通信技術)」というものがありますが、ITは情報技術そのものを指しているのに対し、その情報技術を活用してさまざまなモノや人をつなげることをICTといいます。

インターネットというと、ひと昔前まではパソコンやスマートフォンなどから接続するものというのが一般的でしたが、AIや5GといったICT技術の向上によってIoTが普及した現代では、エアコンや照明などの家電、自動車、工場の設備などさまざまなものが、人の手を介さずにインターネットにつながることができるようになりました。

介護現場におけるIoTの可能性

さまざまなモノがインターネットとつながるIoTを導入することで、介護施設などの介護の現場ではどのような可能性が生まれるのでしょうか。IoTの主な機能は「通信」、「モノの操作」、「動きの感知」、「状態の把握」の4つですが、この機能によって介護現場では作業の効率化や人的ミスの防止などで大きな成果を発揮することが期待されています。

例えば、これまで紙ベースだった介護記録をIoTの活用によって電子化することで、カルテの記録や介護プランの作成にかかっていた時間を大幅に短縮することができるだけでなく、情報が共有しやすくなったり、必要な情報を見つけやすくなったりします。

また、IoTを搭載したセンサを要介護者が身に着けることで、膀胱に溜まっている尿の量を把握し、適切なタイミングで排泄を促すことができ、排泄介護の負担を軽減することも可能です。さらには、人手が少なくなる夜間の居室巡視もIoTを活用することによって、入居者の睡眠の様子、呼吸、心拍数などをセンサで測定することができるため、巡視の回数を減らすことにもつながります。

このように、介護現場にIoTを導入することで、これまで人によって行われてきた時よりも、要介護者一人ひとりのニーズに合わせたきめこまやかな介護を提供することができるようになるのです。

介護現場の課題とIoTによる解決策

その過酷な労働内容から、多くの課題を抱えているといわれている介護現場。IoTを活用することによって、どのようにその課題を解決することができるのでしょうか。介護現場の主な課題とIoTによる解決策を詳しく見ていきましょう。

人材不足の解消

厚生労働省が発表した「令和2年版高齢社会白書」によると、日本の総人口における65歳以上の高齢者割合は28.4%となっていて、日本は人口の4人に1人が高齢者という超高齢社会に突入していることがわかります。また、2040年にはこの割合が35.3%にもなると予測されており、国際的動向をみても高齢化の進行は今後さらに加速していくことが見込まれます。
介護を必要とする高齢者の数が増えている一方で、それを支える介護職は慢性的な人材不足の状態が続いているのが現状です。IoTを導入することによって業務の効率化が進めば、人材不足の解消につながります。

介護サービスのクオリティの維持

介護現場が抱える慢性的な人材不足という問題は、介護の質の低下にもつながります。さまざまなセンサと連携するIoTシステムを導入することによって、一人ひとりの要介護者に合った細やかな対応が実現し、限られた人手のなかでも介護サービスのクオリティを維持することができます。

介護職員の作業負担を軽減

毎日の介護記録やカルテの作成、一人ひとりに合わせた薬の管理、排泄の介助、夜間の巡視など、介護職員は日々膨大な仕事に追われています。一人にかかる作業負担と責任の重さが、介護職員を疲弊させてしまい、仕事に対するやりがいや熱意を奪ってしまうことも多く、結果的に介護の質が低下してしまうという悪循環に陥っている介護現場も少なくありません。
この課題を解決するためにはIoTを活用し、これまで人が行ってきたさまざまな作業のサポートや置き換えをしていくことが大切です。例えば、入居者の居室にカメラやセンサを設置することで、部屋に滞在しているときの入居者の様子や体調、設置している機器の稼働状況などを遠隔からリアルタイムで確認することができます。また、ミスが許されない薬の管理などもIoT機器と人の目によるダブルチェックを行うことで、担当する介護職員の精神的なプレッシャーを軽減できます。

ぜひ上記でご紹介した内容を参考にして、介護現場のさまざまな課題解決につながるIoTの導入を検討してみましょう。なお、IoTの導入については、政府がさまざまな補助金制度を実施しており、具体的には厚生労働省のICT導入支援事業や各都道府県が行う介護ロボット導入支援事業などがあげられます。利用の対象となるかどうかを確認してみるとよいでしょう。