エッジAIとは? クラウドAIとの違いやメリット・デメリットなど

IoTが普及するにつれ、現場で動作するエッジデバイスにAI機能を搭載したエッジAIが注目されています。今、なぜエッジAIが必要とされているのか、そして従来のクラウドAIとの違いはどこにあるのでしょうか。エッジAIについて知っておくべきポイントを整理して解説します。

エッジAIとは

エッジAI(edge AI)とは、エッジデバイスに搭載されたAIのことです。
エッジは「末端の」「端の」、デバイスは「装置」という意味を持ちます。そしてネットワークに接続されたシステムの末端装置がエッジデバイス、そこに搭載されているAIがエッジAIという関係になります。

エッジAIが注目されるようになったのは、IoTの普及拡大に伴い、膨大なデータをできるだけ遅延なくリアルタイムで処理するニーズが高まったためです。したがって、エッジAIを搭載するエッジデバイスの多くがIoTデバイスです。
エッジデバイスそのものや、エッジデバイス(またはユーザ)の近くにサーバを分散配置して処理を行うコンピューティングモデルはエッジコンピューティングと呼ばれます。データの生成元、またはその近くでデータ処理を行えば、クラウドを利用するクラウドコンピューティングよりもずっとスピーディにタスクを遂行できるようになります。エッジAIは、そのエッジコンピューティングの一種です。

経済産業省でもエッジAI関連技術や人材の育成を重要視しており、2018年から毎年「AIエッジコンテスト」を開催しています。

エッジAIとクラウドAIの違い

エッジAIと対照的な存在として知られるのがクラウドAIです。クラウドAIを使ったシステムでは、センサを備えたIoTデバイスなどがネットワークを介してデータを送信し、遠く離れたデータセンタにあるCPUやGPUパワーを使ってそのデータを処理します。IBM、Google、Microsoft、Amazonなど世界的なAIプラットフォーマのほとんどが、クラウドコンピューティングによる「クラウドAIサービス」を提供しています。したがって現在、冠を付けずただ「AI」と言えば、通常はクラウドAIのことを指します。オンプレミス型のAIもありますが、AIを利用するという観点からみると、「AI」と言えばクラウドAIを指していると考えてよいでしょう。

しかしクラウドAIには、瞬時の判断や制御が要求されるようなシーンに対し、ときに処理が追いつかなくなるという難点があります。物理的な距離があり、インターネットなどが介在しているため、数百ミリから数秒程度のわずかなタイムラグが生じるのは避けられません。さらに、通信量が膨大になればなるほどネットワークへの負担が増し、通信料金も高くなり、高度な機能や処理能力が必要になって通信障害やセキュリティ問題が起きるリスクも大きくなります。
それに対し、エッジAIの最大の長所はレスポンスの速さです。また、通信障害に強く、セキュリティ強度が高く、通信コストが安いという特徴も持ち合わせています。ただ、コストに関しては、エッジAIを利用する方がハードウェアを用意したり管理したりするための費用がかかるという面もあります。

エッジAIのメリット

エッジAIは、データ処理を端末側で実行することでさまざまなメリットを生み出します。ここでは、エッジAIがもたらす具体的な利点について詳しく解説します。

通信コストの削減

エッジAIはクラウドAIと異なり、データ処理をエッジデバイス上で行うため、クラウドへ送信するデータが大幅に減少します。これにより通信コストが削減されるだけでなく、データ転送に伴う遅延も低減されます。さらに、通信インフラへの負荷も軽減されるため、ネットワーク障害による影響も最小限に抑えられます。

IoTデバイスやスマートフォンなどの大量のデータを扱うアプリケーションでは、通信コストが大きな負担になる場合がありますが、エッジAIを活用することでその負担を軽減できます。特に、リモートエリアや帯域幅が限られた環境では、エッジAIの通信コスト削減が大きな効果を発揮します。

セキュリティの確保

エッジAIを利用することで、データの処理と分析がエッジデバイス上で完結するため、機密性の高いデータをクラウド上にアップロードする必要がありません。そのためデータ漏洩のリスクやサイバー攻撃に対するリスクが低減されると同時に、プライバシー保護にも貢献します。

また、エッジコンピューティングではデータが集中せず分散されているため、一箇所のサーバに対する攻撃でシステム全体がダウンするといったリスクも軽減されます。エッジAIのセキュリティ面におけるメリットは大きく、特にIoTやスマートシティなどの分野で重要性が増しています。

低遅延によるリアルタイム対応

エッジAIは、データの処理速度が速いため遅延が少なく、リアルタイムでの対応が可能です。クラウド上でデータ処理を行う場合、通信遅延が発生することがありますが、エッジAIではそのような遅延が発生しません。

低遅延によるリアルタイム対応は、自動運転車や医療機器、工場の生産ラインなど、迅速な判断が求められるシーンで非常に有用です。エッジAIを活用することで、これらの分野での効率向上や安全性の確保が期待できます。

エッジAIのデメリットや注意点

エッジAIは多くのメリットを提供しますが、一方でデメリットや注意点も存在します。まず、大量のデータ処理が難しいことが挙げられます。エッジデバイスは計算リソースが限られており、電力消費も抑える必要があるため、一般的にクラウドAIに比べてデータ処理能力が劣ります。そのため、大量のデータをリアルタイムで処理することは困難です。

また、エッジAIの運用は複雑であり、専門知識のある担当者が必要です。エッジデバイスの設定やデータ処理の最適化、セキュリティ対策など、運用に関する知識が求められるため、十分なスキルを持つ担当者が不足している場合、運用において課題が発生する可能性があります。

さらに、エッジAIは現場での運用が主であるため、デバイスの故障や障害に対処するための迅速な対応が求められます。これには、適切なメンテナンス体制の整備やトラブルシューティングのスキルが必要です。

エッジAIの活用シーン

エッジAIの活用シーンとしてまず挙げられるのが自動運転です。近い将来、実用化が期待される自動運転では、カメラやセンサが取得したマルチモーダルなデータを瞬時に分析して状況判断し、車両を制御することが不可欠です。たとえわずかでもタイムラグが発生すればその数ミリ秒の差が命に関わります。カメラやセンサで前後左右は車両側で自律的に判断できても、5台先、5台後の状況はわかりません。車両側だけでなく環境側のエッジAIで判断する必要があるのです。また、クラウドAIだけで制御しようとした場合、通信障害が発生すると自動運転システムそのものに混乱が生じてしまうことも考えられます。安全性を確保するためには、自動運転中の車がセンサで取得したデータを車両側で処理する部分、エッジAIで処理する部分、クラウドAI側で処理する部分と、処理を分散させ判断するという仕組みがどうしても必要です。

また、工場の機械や設備、製造ロボットの予知保全にもエッジAIは有効です。予知保全は機器の状態をセンサで常時計測・監視し、機器が劣化する予兆を見つけると直ちにアラートを発して部品を交換・修理する保全方法です。予知保全にはディープラーニングなどのAI技術が有効であるとされていますが、クラウドAIだけに頼るシステムではやはりリアルタイム性に難があります。エッジAIを用いて常に近くからモニタリングし、予兆を見つけたときに迅速に対応することで、予知保全の自動化が実現すると言われています。

エッジAIとクラウドAIを組み合わせて活用も有効

ただし、エッジAIに適した用途があったとしても、エッジAIのみでIoTシステムを構成するのが最適解になるとは限りません。エッジAIとクラウドAI双方をバランスよく組み合わせてシステムの最適化を図るのが最も有効なアプローチだというケースも、多々あります。

クラウドAIには超高性能なCPUやGPUを用いて大量に蓄積したデータを分析し学習できるという強みがあります。一方、エッジ側では肥大化するデータを保存するためのストレージを確保しづらいという問題があります。そのためたとえばクラウドAIによって基本的な学習モデルを作り、エッジAIはそのモデルに沿って現場で処理を行うといった役割分担をすれば、双方の長所を活かすことができます。まず、クラウドAIで初期学習し、より実践的な判断は現場のエッジAIで行う、といったイメージが近いでしょう。また、エッジAIが学習した内容をクラウドAIにフィードバックし、さらにスケーラブルな学習モデルを作ることも可能かもしれません。エッジAIで瞬時に判断すべきデータとそうでないデータとを分別し、エッジAIで瞬時に判断不要というデータはすべてクラウドストレージに送り、クラウドAIでじっくりと分析を行うといったAIの使い分けが重要になってくるでしょう。

エッジAIはまだ発展途上にある技術です。しかし今後、IoTの普及が進んでいくほど重要な役割を担うようになるのは間違いないでしょう。エッジAIをどのように活用すれば価値の高いIoTシステムが作れるのか、自社のケースに当てはめて考えてみてはいかがでしょうか。