デジタルツインとは? メリットや活用事例を紹介

近年製造業を中心に注目を集める「デジタルツイン」についてご存知でしょうか。デジタルツインは、IoTをはじめとするさまざまなテクノロジーを利用し、現実世界のデータを仮想空間上に再現する技術です。これにより、将来の事象を高い精度で予測し、さまざまなメリットを得ることが可能です。デジタルツインを必要とする領域は製造だけにとどまらず、都市構想やインフラ管理、医療領域など多岐に渡ります。
この記事では、デジタルツインの概要から活用のメリット、活用事例について紹介します。

デジタルツインとは

デジタルツインとは、現実世界のさまざまなデータを、サイバー空間(仮想空間)上にまるで双子(twin)であるかのように再現する技術です。IoTなどの技術を使ってあらゆるものから情報を収集し、デジタルの世界で現実世界そっくりの環境を構築することで、さまざまなシミュレーションが可能となります。
例えば、製造業の生産ラインの変更をしたい場合、デジタルツインを活用したシミュレーションが、最適かつ効率的な環境の構築に役立ちます。
政府はデジタルツインを活用した「Society 5.0」の実現に向けて動き出しており、さまざまな企業や行政がデジタルツインの活用を進めている状況です。
「Society 5.0」についてはこちらの記事「Society 5.0とは?重要な技術や実現に向けての取り組みも解説」でも詳しく解説しています。併せて確認してみてください。

デジタルツインの歴史

デビッド・ゲレルンター氏による1991年の著作「Mirror Worlds」で、デジタルツインという考え方が初めて紹介されました。後にマイケル・グリーブス氏がこの概念を製造業に適用し、2002年の製造技術者協会(SME)の会議で公式に発表しています。

また、実際にデジタルツインのアプローチが初めて取り入れられたのは、1970年のNASAのアポロ13号の月探査ミッションです。飛行中に酸素タンクが爆発するアクシデントに見舞われた際、デジタルツインを利用したシミュレーションにより、無事にアポロ13号を地球に帰還させることができました。この事例が、現実とデジタルの世界をペアで扱うデジタルツインの基本コンセプトの始まりとされています。
以降、デジタルツインはIoT、AI、5G、AR・VRなどの先進技術と組み合わさり、さらなる発展を遂げています。

デジタルツインの仕組み

デジタルツインは、現実世界の物理システムとデジタル上で構築したコピーを連携させる技術であり、その仕組みは高度な計測技術、センサー技術、通信技術、データ処理技術が融合して機能します。

まず、対象物の形状や寸法を正確に把握するため、3Dスキャンや点群データを用いてデジタル上で仮想モデルを作成します。

続いて、対象物に取り付けられたセンサーが温度、圧力、振動などのリアルタイム情報を収集し、IoTを経由してクラウドにデータを送信。データはデータ処理プラットフォームで解析され、デジタルツインモデルに統合されます。この仕組みにより、現実世界の状況を正確かつ迅速に反映した仮想空間を実現できます。

さらに、機械学習やAI技術を駆使してデータ解析を行うことで、高精度な予測やシミュレーションが可能です。

デジタルツインとシミュレーションの違い

シミュレーションとは、実験を行うことが難しい事象について、想定する場面を再現したモデルを用いて分析することを指します。デジタルツインは、現実世界をサイバー空間で再現する技術で、シミュレーションを行うための手法の一つです。
従来のシミュレーションとデジタルツインの違いは、リアルタイム性と現実世界との連動にあります。デジタルツインではリアルタイムの情報を用いて、その名前の通り双子(twin)のようにそっくりそのままサイバー空間上に再現しながら将来予測が行えるのが特徴です。そのため、従来よりもさらに現実に近い現実世界の変化に対応したシミュレーションが可能になります。

デジタルツイン活用のメリット

主に生産の現場におけるデジタルツイン活用のメリットについて解説します。

設備の監視・保全

デジタルツインを実現するためには、IoT機器などを用いて現実世界の情報をリアルタイムで取得する必要があります。そのため、設備の監視・保全も同時に実現可能です。

品質の担保・向上

デジタルツインによって将来予測を含めたシミュレーションを行うことで、生産品の品質を担保するだけでなく、改良を加えて品質を向上させることが可能です。

開発期間の短縮

開発は試行錯誤を繰り返しながら進めるものですが、デジタルツインを活用することで検証を短縮することも可能です。適切なシミュレーションが実現することで、開発期間(リードタイム)の短縮が期待できます。

コスト削減

製造工程では製品の試作が欠かせませんが、実際に作成するとコストがかさんでしまうことがあります。しかし、デジタルツインによってサイバー空間上に試作品を作成することで、コスト削減が可能です。

安全性の向上

生産ラインをデジタルツインで再現することで、製造プロセスにおけるトラブルなどをほぼリアルタイムにデジタル上で再現できます。シミュレーション結果から分析・改善を実施でき、安全性の向上に役立てられます。

作業の効率化

サイバー空間ではコストやスペースなどの制限を気にする必要がありません。製造におけるさまざまな試みが実施でき、物理的な制限から解放されることで全体的な作業の効率化が期待できます。

デジタルツインにおける重要な技術

デジタルツインを実現するためには、いくつかの重要な技術が欠かせません。ここでは、IoT、AI、5G、AR・VR、CAEといった主要な技術について解説します。

IoT

IoT(Internet Of Things)は、現実世界のデバイスやセンサーをインターネットに接続することで、リアルタイムのデータ収集や制御を可能にする技術です。デジタルツインの構築には、IoTセンサーを利用した現実世界からのデータ収集が欠かせません。

AI

AI(人工知能)は、デジタルツインによるシミュレーションで得られたデータを解析し、製品開設や製造プロセスの最適化に役立てるために必要な技術です。AIアルゴリズムは、データからパターンやトレンドを学習し、予測や最適化のための情報を提供します。AIのアシストがあることで、より迅速かつ効率的な意思決定を行うことができるようになります。

5G

5G(第5世代移動通信システム)は、高速で大容量の通信が可能な通信規格です。IoTセンサーで取得したデータをリアルタイムにデジタルツインへ反映したり、遠隔地からアクセスしたりすることを可能にします。5Gを活用することで、デジタルツインの応答速度が向上し、より現実世界に即した高度なシミュレーションや再現ができます。

AR・VR

AR・VR(拡張現実・仮想現実)は、デジタルツインを現実世界と感覚的に連携するうえで重要な役割を果たします。ARはデータをもとに構築された3Dモデルを現実世界に重ね合わせる技術であり、VRはデジタル空間上での体験を実現する技術です。これらの技術を活用することで、デジタルツインの情報を視覚的に理解し、現実世界での作業効率をいっそう向上させることができます。

CAE

CAE(Computer Aided Engineering)は、デジタルツインでのシミュレーションや解析を効率化するための技術です。構造解析や流体解析、熱解析などの工学的問題をコンピュータの支援を活用して解決することで、プロセスを効率化しコストや時間を削減できます。

デジタルツインの活用事例

デジタルツインはさまざまな業種で活用されています。ここでは、その一部を簡単に紹介しますので、一つずつ見ていきましょう。

製造業

ドイツの先進企業では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するためのサービスとしてデジタルツインのソリューションを提供しています。すべての機械のコンセプト・制御設計・立ち上げ・製造・保守までをデータでつなぐことで、設計の標準化や機械の付加価値創出が可能です。

自動車製造業

自動車製造業では製品の改良に役立てるために車両の運用データを収集・分析し、リアルタイムに評価する活用方法が取られています。加えて、新車の開発においても、デジタルツインの活用によって実際の部品を生産する際に起こり得る問題をシミュレートし、製造コストの削減に役立てられています。

建設業

建設業では設計・施工・維持管理の各工程でデジタルツインを活用することで、安全性・生産性の向上に役立てられています。3Dでの設計や施工シミュレーション、維持管理の最適化に活用されています。とある事例では現場にIoTセンサーを設置し、人や自動車、その他の物体などのデータをサイバー空間上に表示することで、建設現場を可視化しています。

金融業

金融業界では、デジタルツインとAIを組み合わせ、サイバー空間上に顧客情報を再現するアバターの生成などの実現を目指しています。具体的には、認知機能の低下に備えて、高齢者が保有する資産や思考などをオンライン上に保存し、信頼できる第三者に共有できるサービスを検討しています。

デジタルツインはIoTの上に成り立っている技術で、現実世界のデータをサイバー空間(仮想空間)上に再現できることが特徴です。製造業に限らず、さまざまな業種での活用が進められています。
今後企業活動を円滑に進めるにあたり、デジタルツインはなくてはならない技術となるでしょう。ぜひ、デジタルツインを活用してみてはいかがでしょうか。