「2025年の崖」とは何かわかりやすく解説

長引くコロナ禍や少子高齢化による人材不足など、企業は日々さまざまな課題の解決を求められています。その中でも、直近の課題として早急な対策を迫られているのが、日本が世界的なデジタル化の競争に乗り遅れる分岐点と言われている「2025年の崖」です。
今回は、企業だけでなく日本経済全体に関わる重要な問題でもある「2025年の崖」について、2018年9月に発表された経済産業省の「DXレポート」をもとに詳しく解説していきます。

経済産業省のレポート「2025年の崖」とは

2018年9月に経済産業省が発表した「DXレポート」というものをご存知でしょうか?50ページを超えるこのレポートでは、企業にとってのDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性について言及していて、そのサブタイトルとして使われている言葉が「2025年の崖」です。
端的に説明すると、日本のデジタル化の遅れを問題視している言葉で、解決をしないままでいると日本は今後、世界的なデジタル化の動きに大きく遅れを取ることになるといわれています。その分岐点となるのが2025年というわけです。
数年後に迫ったこの問題に対処するために、政府はDX推進に力を入れているわけですが、経済産業省が行った「日本企業におけるDX推進状況調査」によると、DX状況の自己診断を提出した企業のうち実に95%もの企業が「DXに全く取り組んでいないレベル」、もしくは「DXの散発的な実施にとどまっているレベル」だったことが明らかになりました。

「2025年の崖」で挙げられている問題点

「2025年の崖」で挙げられている問題点は、企業や組織にとって深刻な影響をもたらす可能性があります。以下で「2025年の崖」で挙げられている主要な問題点について詳しく説明していきます。

既存システムのレガシー化

技術面において老朽化したり、必要以上に肥大化・複雑化したり、ブラックボックス化したりすることなどによって、経営・事業戦略上の足かせとなった高コストなシステムのことを「レガシーシステム」と呼びます。

DXレポートでは、約8割の企業がレガシーシステムを抱えており、約7割の企業がそれら老朽化システムをDXの足かせになっていると感じている点を指摘しています。

ITエンジニア不足の深刻化

デジタル化が進む中、ITエンジニアの需要は急速に高まっています。しかし、供給が需要に追いつかない状況が続いており、2025年にはITエンジニアの不足がさらに深刻化することが予測されています。

ITエンジニアの人材不足が深刻化することにより、企業のデジタル化推進や新技術の導入が遅れるリスクが高まります。

新技術の導入が困難に

上記2つの問題点と相まって、新技術の導入が困難になることも「2025年の崖」で指摘されています。

既存システムのレガシー化やITエンジニアの不足が原因で、新しい技術やシステムの開発・導入が遅れることが懸念されているのです。これにより企業の競争力が低下し、国際的な市場における立ち位置が悪化する可能性があります。

「2025年の崖」は企業にどのように影響するのか

経済産業省が発表したDXレポートでは、日本企業のDXが進まず「2025年の崖」が現実となった場合、年間で最大12兆円もの経済損失が生じると警鐘を鳴らしていて、日本経済全体にとって重要な問題であることが分かります。
では、個々の企業で見た場合にはどのような問題が生じるのでしょうか。「2025年の崖」が企業に与える具体的な影響について、詳しく見ていきましょう。

事業運営に欠かせない複数サービスのサポートが終了する

Windows7やISDN回線、SAP社のERP基幹システムなど、企業が事業を行う上で欠かせないさまざまなサービスが2025年前後にサポートを終了すると言われています。以降の保守メンテナンスが受けられないだけでなく、代わりとなるサービスへ移行しなければ事業に大きな支障が生じてしまうことも。

セキュリティリスクの増大

老朽化した基幹システムを使用している場合、最新のセキュリティプログラムに対応していないものも多く、セキュリティ面でのリスクが高くなってしまいます。

業務効率の悪化

DXが進まない企業では、クラウドベースのサービス開発・提供に対応することができず、業務が効率化できないだけでなく、競合他社との市場争いで敗北が決定的になります。

システムの保守運用費用の膨大化

多くのレガシーシステムでは、短期的な視点で開発された結果、長期的に運用費や保守費が増加している状況が見られます。これは、本来必要でなかった運用・保守費を継続的に支払っていることを意味し、ある意味で負債と捉えられます。このような負債は、「技術的負債」と称されます。

技術的負債を抱えた企業では、古いシステムをアップグレードするか、新しいシステムに移行するかの選択を迫られます。しかし、システムのアップグレードや移行には多額の費用がかかることが一般的です。そのため、維持コストが高騰し続けてもレガシーシステムから脱却できない状況に陥ります。

競争力の低下

新しい技術が登場し、業界の標準が変化する中で、古いシステムを使い続ける企業は効率性や生産性の面で劣位に立たされる可能性があります。

また、新しい技術を取り入れられずDXを実現できない企業では、爆発的に増加するデータを活用しきれないまま、新しい市場や顧客のニーズに迅速に対応できないことで、競合他社に取り残されるリスクも増大します。

イノベーションが鈍化し、市場シェアの喪失につながるだけでなく、さらに優秀な人材の確保が難しくなるという問題も発生します。古い技術を使用している企業は、新しい技術やスキルを持つ人材にとって魅力的でないことから、競争力の低下がさらに加速することになります。

システム障害のリスク

2025年の崖がもたらすもう一つのリスクは、システム障害の可能性が高まることです。サポートが終了したソフトウェアやハードウェアを使い続けることで、セキュリティの脆弱性が高まり、データ漏洩やサイバー攻撃の被害を受けるリスクが増大します。

また、古いシステムは新しい技術やアプリケーションとの互換性が低く、予期せぬトラブルやシステムのダウンタイムが発生することがあります。これにより、企業の業務効率が低下し、顧客満足度が損なわれることも考えられるでしょう。

さらに、サポートが終了したシステムを運用していると、問題が発生した際に迅速な対応が困難になることも。トラブルが発生すると修復に時間がかかるだけでなく、企業の評判や信頼性にも影響を与える可能性があります。

「2025年の崖」の影響を受けない企業とは?

日本経済に大きな損失を及ぼす可能性がある「2025年の崖」ですが、全ての企業が危機に直面しているというわけではありません。では、実際にどのような企業が「2025年の崖」の影響を受けにくいのでしょうか。そのポイントとなるのが、「レガシーシステムを抱えているかどうか」です。
「レガシーシステム」は簡単に言えば「老朽化したシステム」のことであり、昔から稼働しているシステムにメンテナンスや改修を繰り返した結果、プログラムが複雑化してしまい、システム担当者でも中身を把握しておらず対応できないものを指します。
企業によっては社内システムを常に最新のものにアップデートし続けているところもあり、そのような企業では「2025年の崖」の影響を受ける可能性は少ないでしょう。ただし、自社でレガシーシステムを抱えていなかったとしても、取引先がレガシーシステムを利用し続けていた場合、間接的に影響を受けてしまうリスクはゼロではありません。

企業に必要な「2025年の崖」への対策「DX」とは

「2025年の崖」を回避するために欠かせない「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。これは、スウェーデンのエリック・ストルターマン教授によって、2004年に提唱された「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念です。日本では経済産業省が独自に再定義していて、簡単にまとめると「ITを利用した変革」という意味になります。
具体的には、古いシステムを新しいシステムに刷新したり、これまで紙ベースで行っていた業務をデジタルへ移行したり、クラウド化を進めるなど、便利なシステムやツールを積極的に導入することで、業務の効率化やより良い事業活動へ導くこともDXです。つまり、DXは事業を成長させるために不可欠なものであり、また一方でDXを行わなければ企業は今後大きな損失を受ける可能性があります。目前に迫っている「2025年の崖」を回避するためにも、早急にDXを進める必要があるというわけです。

「2025年の崖」に備えるためには、何よりも早急なDXに取り組むことが大切です。まずは、上記でご紹介した内容を参考にして、自社のシステム環境を見直しましょう。なお、DXについてより詳しく知りたいという方は、「DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何かわかりやすく解説」の記事も併せてご覧ください。